こたつむり

殿、利息でござる!のこたつむりのレビュー・感想・評価

殿、利息でござる!(2016年製作の映画)
3.8
★ 虎は死して皮を留め、人は死して名を残す

コミカルなタイトル。
阿部サダヲさんの突き抜けた表情。
そんなところからコメディだと思って鑑賞したら…完全に違いました。僅かながらに笑える場面はありましたが、メインは“人情”だったのです。

物語としては、困窮した宿場町が公金(伝馬役の費用)を賄うために奔走する時代劇。きっと、堅苦しい印象を払拭するためにコメディ要素を前面に出したのでしょう。

そして、その姿勢から伺えるのは、日本人にとって人情は遠い過去の話になってしまった…そんな事実ではないでしょうか。確かに共同体として和を貴び、己の肉を分け与える心持ちは風化し、いびつな“村意識”だけが残っている気がします。

でも、それは表層だけの話。
春夏秋冬の四季が巡り廻るように、僕らの中には先祖代々から伝わる“何か”があるはずなのです。たとえ、それが無かったとしても「情けは人の為ならず」でも良いわけで、大切なのは「自分は何を出来るか?」と問い掛けることだと思うのです。

そして、そんな鋭い問題意識を仕込みながらも、涙腺を刺激する作品を作り上げたのは中村義洋監督。豪華な出演者たちを活かした手腕は見事な限り。相棒の濱田岳さんもナレーションで参加していました。

ただ、残念なことに少し敷居が高いのも事実。
江戸時代の文化の知識がある、あるいは自分の想像力で補うことが必要だと思います。

これは歴史教育の敗北。
歴史とは未来へと歩むために内包すべき知識。
それを義務教育で仕込めていない文部科学省は猛省すべき…って、僕が無学なだけですね…えへへ。

また、経済の観点で言うならば。
大金千両を貸し、その利息を公的資金とする…という発想は良いのですが、返済計画が現実味に欠けるように見えました。人情も大切ですが、金利についてはキッチリと押さえておかないと尻の毛まで抜かれますよ(リボ払い厳禁)。

まあ、そんなわけで。
日本人の日本人による日本人のための物語。
風紀が乱れた現代だからこそ観るべき作品。
名は遺さずとも先祖が築いてきた歴史の上に僕らは生きている、と実感できました。
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