荒野の狼

スターリングラード 史上最大の市街戦の荒野の狼のレビュー・感想・評価

4.0
英語の題はStalingrad(スターリングラード)で2013年のロシア映画。ベラルーシ(旧ソ連に属した)出身のスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチによるドキュメント小説「戦争は女の顔をしていない」はソ連とドイツの戦争に参戦したソ連女性兵の証言集だが、読後に独ソ戦に興味を持ったので視聴。同時期を描いた映画は他には「祖国のために」があるが、こちらは副題が「バトル・フォー・スターリングラード」であるにも関わらず戦闘は、スターリングラードにいたる前であり、ヒトラーとスターリンは名前すら出てこない映画であった(映画のストーリー展開などから言えば、ノーベル賞作家のショーロホフが原作の“祖国のために”ほうが本作よりはるかに上ではあるが)。そういった意味でも、独ソ併せて200万人の死亡があったスターリングラード攻防戦を実際に描いた映画で現在、日本で見られる映画は少ないので本作は貴重。
本作で描かれているソ連兵が女性に優しかったというのは「戦争は女の顔を、、、」でも証言されているとことであるが、一方、上官の意見に逆らう部下をその場で銃殺するなど冷酷な部分も本作では描いている。また、水飲み場に来たドイツ兵を射殺するといった軍人としては相応しくない場面も描かれており、ソ連兵の美化に終わってはいない。
本作はスターリングラード攻防戦の全貌を描いたものではなく、ヴォルガ川近くのアパートを少ない人数で死守するソ連兵の数日を描いたもの。脚本は、参戦した人物の日記などを資料に作成されたが、アパートのモデルになった「パヴロフの家Pavlov's House 」はスターリングラード攻防戦、ひいては独ソ戦全体を通してソビエト軍が見せた我慢強い抵抗の象徴であり、現在は再建されたものがある。「パヴロフの家」は実際には、ソ連国防人民委員令第227号に従い、ソ連兵4名から25名の人数で2か月間死守されたので映画で描かれているものに史実は近い。
本作ではソ連側とドイツ側の二つの恋愛も大きなテーマになっているが、恋愛のみを生きる望みにして生き抜いた兵士も「戦場は女の、、、、」によれば、少なからずいたとのことであるので、ひとつの戦争の側面を描いたと言えるだろう。
冒頭とラストは東日本大震災の救援に来たロシアが瓦礫の下に閉じ込められたドイツ人学生を救出するという話になっている。ロシア側のリーダーが本作のヒロイン・ヒーローの息子という設定。独ソ戦では、敵同士だった二つの国の人間が今度は助け合う(しかも大戦時にはナチス・ドイツに組していた日本の地で)という感動的な設定なのだが、十分な説明がないので、感動が伝わり難い。できれば、救出されたドイツ人学生がスターリングラード攻防戦に参加したナチス大尉の娘であったとしYanina Studilinaを一人二役で使えば、より感動は伝わったと考える(本作ではYanina Studilinaはナチスの大尉が死んだ妻に似ていたため愛するようになるソ連女性を演じている)。
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