マンボー

シン・エヴァンゲリオン劇場版のマンボーのレビュー・感想・評価

3.3
原書が読めるわけでもないのに、聖書をモチーフにして大風呂敷を敷いたけれど敷きっぱなしで説得力をもたせきれずに懊悩し、闇の底に落ち込みながらも、何とか周囲の支えもあり、ゼロから人の営みを見つめ直して精神的に回復し、やや受け身ながら大人として歩みはじめた主人公と庵野監督の姿がいつしか完全に重なって見えてしまった大人子供の再生の物語。

本作のストーリーは一見飾られているけどシンプルで素朴、新鮮さにも乏しい。ただ庵野監督の場合、どう表現するかということにおいては、工夫と技巧の職人でそれこそ天才じみているので、何でもないことを、見たことがないような方法で表現しているし、細部へのこだわりもほとんど独りよがりで、周りは巻き込まれて大変だろうけれど本当にすごい。

本作を観てよく分かった。脚本家やストーリーの作り手としては突出していないし、幅があるわけではないけれど、表現力と演出力は抜きん出ているから、実写でも独特のオリジナリティーを保ちながら、よい作品を生み出せるのだと。

あと、これだけ悩んで、ゼロからの再生を綿々と描くあたり、本当に真面目で奥手でシャイな人で、それでいて才能があって、女性に救われるわけだから、案外他力本願で、でもしたたかにも生きてゆける人なんだろう。それにしても、結局、ストーリーはただただ自分の内面とこれまでの人生や願望の吐露で、恥ずかしいぐらい庵野監督が自分自身のほぼ全てを正直に語り尽くしていて、観ているこちらが気恥ずかしいような、ここまで祭り上げて追い立てた人々にも責任を感じてほしくなるような赤裸々で痛々しいぐらいの作品だった。

もう完全に全てを洗いざらい本作で語られたので、裸一貫の人を前に悪くは言いにくいのだけど、何とか終わらせようとした物語は凡庸。でもどう描くか、高名な監督が矛盾の多い作品をどう終わらせるのかを目にするのは、真似はできないし、するべきでもないけれど、一見の価値はあるかも。

しかし、本作の作画技術は素晴らしいけれど、完全にスタッフや作品の私物化に近く、それでも興行的に大成功している現状に、歪みと妙な不安を感じるのは自分だけだろうか。
庵野監督の今後に妙なプレッシャーがのしかからず、ただただよい作品が作られんことを!