永遠の寂しんぼ

シン・エヴァンゲリオン劇場版の永遠の寂しんぼのレビュー・感想・評価

5.0
『少年は神話になり、現実へと帰った』

公開初日朝にIMAXで鑑賞。その後も4DXを含めて5回以上鑑賞済み。僕は小学生の頃にTVシリーズ、旧劇場版を見て、『新劇場版:破』を鑑賞。『:序』をリアルタイムで観れなかったのは残念だったけど、その後はエヴァのカオスにハマりまくっていた大ファンです。特に『:Q』はもう十回単位で見ているし、全記録全集とかも買ってTwitterで考察も呟いたりしている。という訳で、エヴァファンとして、映画好きとして語りたい事が地獄の門から溢れたエヴァインフィニティくらいあるので超長文になります。

まず2019年7月6日『0706作戦』で鑑賞した約10分のAVANT1。もう『:Q』から7年近く経っているのにそれまでほとんど情報が出ていなかったが、日比谷で観たこれには当然大興奮だった。10分の中に込められたもの凄い情報量、凄まじいカメラワークの中で踊るように敵を蹴散らす8号機、魔改造されたカオスな見た目のNERVエヴァ、そして陽電子砲という『:序』の要素。これだけで考察し放題だったし、待った甲斐あってシンエヴァが超クオリティで製作されている事に高揚した。特にドローン型の『エヴァ44A』がツボ。あんな奇怪で面白いデザインを考えられる山下いくとさんはやっぱり天才🤩 アンチLシステムによりコア化を解かれたパリを見て、もう絶望を絵に描いたような『:Q』の真っ赤な世界を修復できる可能性が見えて、『もしかしたらシンエヴァはハッピーエンドかな?』という予感もあった。

コロナで2度も公開延期したのは残念だったけど、庵野さんが納得するまで作り込めばいいと思ってたし、予告編とかからも色々シンエヴァの展開を予想する楽しみもあった。まあ観終わってみると、特報の一部のシーンは使われなかったり背景が差し替えられたりしてて若干予告詐欺だったけど(笑)

そしてIMAX席を勝ち取って3月8日に劇場に朝イチでカチコミ鑑賞。ギリギリまで展開予想していた。まずアバンは前のとほぼ同じだったが若干SEやエフェクトが追加されていた。そしてAパートの第3村。実はこの展開はある程度予想できていた。予告編やだいぶ前に『日本アニメーター見本市』で公開された『:Q』の続きと思われる作品『Until you come to me.』でコア化していない謎の場所が映っていたし、『:Q』の次回予告の『辿り着いた場所が彼に希望を教える』というナレーションから、シンジ達がサードインパクトを生き延びた人々の拠点にたどり着きおそらく大人になったトウジ達と再開するのだろうと思っていた。まさかあんなにしっかりした村だとは思わなかったけど。

まず何よりトウジとケンスケがあんなに立派な大人になっていた事に素直に感動したし、ちょっと長いなとは思ったけど美しい自然の中で逞しく生きる村人達の日常も良かった。背景の作画も非常に写実的で美しい。『:Q』はもう荒廃した赤黒い背景ばっかりだった分完結編で『:序』や『:破』のような色彩豊かな日常を観れて感激。ほとんど無感情だった『:Q』からいきなり変化し過ぎとは思ったものの別レイの純真無垢さ、農業やヒカリとの会話を通じて人間性を獲得していく様にはホッコリした。もうヒカリは名言量産機かと思うくらい深くて良い台詞を連発してくれた。ここからも庵野監督の人生論をしみじみ感じ取れる。何より上手いと思ったのは完全に心が折れてしまったシンジの立ち直り方。もう誰が何を言っても心に届かないけど、リリンではない別レイには返事をしてしまう。村での生活を通して成長した別レイの純度100%のあの言葉を通じて、シンジに人の優しさが伝わっていくという様が本当に見事で、シンジが立ち直る説得力が完璧だったと思った。

Bパートも色々面白い。ヴンダー艦内のマヤが乗ってたカチャカチャ線路が切り替わる重力を無視したようなモノレールに乗ってみたい(笑) 予告で映っていた謎の白い容器群はヴィレクルーのお墓だと思っていて、生命の種を保存する装置だと予想できなかったのは悔しかった。『AAAヴンダー』のAAAは”Autonomous Assault Ark”の略だが、この”Ark”は『方舟』の事だからここから予想できた筈だった。説明しないと多くのファンが絶対納得しないだろうなと思っていたミサトさんの『:Q』でのシンジの冷遇っぷりに対するアンサーもしっかりあって良かった。ミサトさんの回想から見えるサードインパクトの真相、リリスやMark.06、それを食い止めた加持さんについては今後僕みたいなガチのオタクが必死に考察しないといけない。お弁当の件しかりアスカが14年間思い詰めていた事をシンジに吐露する所も良かった。アスカが素直に自分の気持ちを言葉にしてくれた事も、ちゃんと『:破』での成長から受け継がれているなと気付いた。

そしてお待ちかねの最終決戦のCパート。舞台がセカンドインパクトの呪われた爆心地というだけでファンとしては燃えるし、庵野節全開のど迫力の艦隊戦も最高。あのノリノリの『惑星大戦争』のBGMも初見時は『なんじゃこりゃ⁉︎』だったが今ではツボにハマっている。『タイマン上等!』だの『全て叩き潰す!』だのめっちゃ好戦的で男前になったミサトさんも笑える。リツコの『射出‼︎』以降の2号機と8号機の戦闘も毎回テンションMAXで観ている。この辺は鶴巻監督の『トップをねらえ2!』を彷彿させる熱血ロボットものらしさがある。ドリル状になったMark.07の大群はトップの宇宙怪獣によく似ていた。この時のマリとアスカは『ふたりはプリキュア 』みたいで笑える。

そして13号機を食い止める為のアスカのまさかの奥の手。アバンでは『:序』の要素があったが今作ではシンジのお弁当、加持さんの畑の土の匂いに加え、ここでも『:破』の要素を取り入れていて完結編にふさわしい盛り上がりぶりだった。まあMark.06しかりカッコいい機体が噛ませみたいになっちゃうのが新劇場版通して残念ではあるのだけれど。そしてゲンドウと冬月によって発動される『アナザーインパクト』。この辺からエヴァファンがざわつくような謎要素てんこ盛りになっていっていく。冬月いわく13号機は『人工的なリリスの再現』らしいし、ゲンドウが神が人類に与えた運命について語っているシーンの背景はおそらくあれが『死海文書』なのだろう。黒き月、聖なる槍、アダムスと、新劇場版の根幹に関わる重要な部分のヒントが散りばめられているので考察を頑張らないと!

予想通り北上ミドリが場をかき乱し出したと思ったらまさかのもっとヤバい奴だったサクラが出てくる所。ここは観た人から散々ネタにされているしなんか昼ドラみたいだったが冷静なツッコミを入れると、彼女たちのドラマをより肉付けするためにももう少し劇中で『ニアサードインパクト』とその被害、シンジがどこまで生き残った人々に嫌悪されているかの説明が欲しかった。『:破』のラストのニアサーとリリスとMark.06に起因するサードインパクトが別物である事が今作ではっきりしたのは良かったものの、どの時点で人類がインフィニティ化したのかと、ニアサーで初号機がガフの扉を開いた事とサードの因果関係が分からず終いだったので、シンジの罪や彼女たちの憎しみに関してふに落ちない部分が残ってしまったのは残念だった。初号機の四肢が切断されていたので、空白の期間に初号機に関しても一悶着あったのは間違いないだろう。

そしてDパート、マイナス宇宙でのシンジとゲンドウの戦闘と対話。シンエヴァの最終決戦、『神殺し』が行われるのはガフの扉の向こう側だと思っていたし、予告編で崩壊前の第3新東京市が映っていたから『インターステラー』の5次元空間のように過去の時空へ行くのか?と予想していたがまさかNHKの『エレメントハンター』(あとウルトラマンA)の方だったとは。(このアニメには反世界である”ネガアース”や人間には感知できずに訪れた者の記憶の世界が映る”11次元 ”が登場する) 初号機vs13号機のバトルでは『シン・ゴジラ』に引き続き特撮のテクニックがふんだんに使われていて面白い。旧劇場版や漫画版を遥かに超えて掘り下げられた碇ゲンドウの心理。 ”他人の恐怖”の象徴であるA.T.フィールドの意味。エヴァンゲリオンという作品の根幹である他者との衝突や自己をどう維持していけばいいのか?というテーマに真っ正面から向かい合っていたし、これが庵野さんが8年以上かけて世に知らしめたかった事だったんだなと感慨にふけった。ここまで恥も外聞も捨てて自己をキャラクターに投影した庵野監督は本当に立派なクリエイターだと思う。

『アディショナルインパクト』の『現代アート展か!』とツッコミたくなるようなカオスな見た目といい『Komm, süsser Tod / 甘き死よ、来たれ』を彷彿させる『ああ、世界オワタ😭』な感じのBGMもやっぱりエヴァはエヴァだったわって感じ。『:破』はエンタメ性全開の作品で、もちろんあれは大傑作なのは間違いないないものの、やっぱりこういうカオスで鬱度MAXな感じがエヴァだし、25年の歴史の中でテーゼをブレずに突き通したなと思い知った。ミサトさんの物語としても完璧で、あのラストは胸熱すぎる。『:Q』で地に落ちた彼女の株だったが、観た人はみんなミサトさんが大好きになれたんじゃないかな。ちなみに『ガイウスの槍』はもうだいぶ前に(多分:Q公開の1,2年後)シンエヴァでそれが登場する事を予想してた人がいたからめっちゃビビった。『:Q』でカヲルとシンジが連弾したピアノの”YAMAHA“のマークが3本の槍に見えるし、聖なる槍の名前の由来が『ガイウス・カッシウス・ロンギヌス』という古代ローマに実在した人物から来ている事から
という根拠だった。見事大当たりの天晴れな予想でした。

そしてシンジがアスカ、カヲル、レイの魂をエヴァの呪縛から解放していくシーン。ファンとしてはアスカとレイの見送り方は完璧だったと思う。明かされたアスカの真実が新劇場版から苗字が式波に変わった事の伏線をきっちり回収してくれたし。カヲルに関してはワガママを言えばもうちょっとだけ答えを見せて欲しかったというのはある。加持さんとの関係とかは興味深かったし、多くの人が考察していた通りの彼の運命が明かられたのは良かったものの、結局なんで彼が第1の使徒だったのかやアダムスや月面の巨人との関係が明かされなかったのは少し心残りがあった。
マリに関してもファンに関して賛否が割れてるし、謎が残る部分もあった。でもマリに投影されたあの人に対する庵野監督の想い、決意はバッチリ受け取られせもらった。本当に庵野さんは作品に対して己に対して正直な人だ。個人的にはマリは新劇場版の物語における『デウス・エクス・”マキナ”』なんじゃね?という考えを表明したい。

いくつかの謎は残ったものの、シンエヴァを見る前から前3作で張りまくった伏線を全部回収するのは無理だろうなとは思っていたし、作り手側も最初からご丁寧に全てアンサーを出す気も無いんじゃないかと思う。それでも予想以上に多くの事が明らかになったし、『謎を謎で返す』のがエヴァの流儀なんだと思う。終盤は新要素満載だったし。物語の内容だけでなく作画の美しさや映像、演出の面白さなど加点したいポイントがありすぎて不満点がほとんど霞んでしまう。何よりシンジ達の物語をこれ以上無いくらい完璧に締めてくれた事に大感謝です。一人一人のキャラに作り手からの深い愛を感じられたし、エヴァはロボットものである以上にその繊細でリアルな人間たちの葛藤や成長が多くの人達がシンクロしてきた作品だから、全てのエヴァンゲリオン作品を神話へと昇華させ、ファンの魂を紡いだ見事な完結編だったと思います。本当に“全ての終わりに愛があった“し、“Beautiful boy“の物語だった。

僕も多くの人と同じようにエヴァから色んな事を受け取ってきた。中にはTVシリーズ終盤や旧劇場版のような頭がおかしくなりそうな(多分十分おかしくなってる)あんまり良くない事も含めて(笑) これだけ受け取れるものが多く現実世界のカタチすら変えかねない程のエヴァという作品は、もはやアニメとか映画がどうとかを超越して、伝説とか神話の域に到達していると思う。

混沌に、ありがとう。虚構に、さようなら。
そして、全てのエヴァンゲリオンにおめでとう。
(こんなつまんない感想を最後まで読んでくれてありがとうございました🙇‍♂️)