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Few of Us(原題)のBONのレビュー・感想・評価

Few of Us(原題)(1996年製作の映画)
5.0
20世紀後半のリトアニアを代表するアートハウスの巨匠、シャルナス・バルタスの傑作。

同年のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門上映作品。主演は本作の3年後に公開されるカラックスの『ポーラ・X』(1999)にて、ギョーム・ドパルデューと共に堕ちていく呪われた姉弟を演じたカテリーナ・ゴルベワ。

日本国内では鑑賞できる術がなかったので、リージョンフリーの再生機と海外版ソフトを購入した。注文して約1ヶ月、予定より大分遅れてパリからやっとソフトが届いた。包みの切手が可愛かった。

ヘリコプターの窓からサヤン山脈の荒涼とした風景を眺める女。文明とは無縁の神に見放されたトファラール民族だけが住む小さな土地に彼女は降り立ち村に佇む姿を淡々と描く。

彼女は全編に渡り一言も台詞がなく、観客は彼女がなぜこの村にやってきているのかも分からない。牧歌的な風景という舞台が主役でありながら無言で村に息づくゴルベワがただひたすらに切なくて震えるほど美しい。

雪に包まれた殺風景な大自然、凍て付きそうな水と流れる音、小屋に灯るオレンジ色の明かり、犬の鳴き声、不気味な親父のクローズアップ、息を呑むほど美しいロングショットと人間を排除した音、現実と何ら変わりない世界が広がっていく。そして村の中で少しばかり残酷な出来事が起こる。

五感が呼び覚まされるような感覚、自分がいかに社会に毒されていて、孤独がいかに普遍的なもので、言語など何の役にも立たないものなのかなど考える。村も神格化された神聖なものではなかった。ひたすらに人間が少しいるだけで社会は形成される。

ゴルベワの出演する映画は異邦人役が多くいつも孤独と共に歩み全てを達観した瞳で私の心臓を撃ち抜いてしまう…。今でもどこか遠い土地で生きているんじゃないかと思ってしまう。

特典映像には若々しいバルタスのインタビューがあるのですが、幸運なことに字幕があったので時間がある時にちびちびと訳していきます。
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