KIBAYASHI

ゾンビーワールドへようこそのKIBAYASHIのレビュー・感想・評価

4.5
「桜は儚いからこそ美しい」人は儚さに心を奪われるものです。やがて散りゆく花の姿に諸行無常を重ね、人々はその美しさに魅了されるのでしょう。そりゃそうです、年がら年中咲いている桜に風情もクソもありませんから。


本作はボーイスカウトで幼なじみの3人組が主役であり、思春期真っ只中の高校生である3人が思春期特有の悩みや葛藤を通して一致団結をし、ゾンビ相手に戦いを挑むという青春ストーリー。


ところで、青春って素晴らしいじゃないですか。青春という一言には夢や希望が尋常じゃない程に詰まってる、それはもう張り裂けんばかりに。あの日、あの時、あの場所で、僕には眩し過ぎる君の笑顔こそが、僕にとっての青春だった。とか言ってみたかった、本当に。そんな薔薇色の青春を送りたかった、本当に。でも僕がそういった青春を味わえなかったから、代わりに素晴らしい青春を享受できる人間がいるということを忘れるなと言いたい。良かったな、俺が青春を謳歌する風早翔太くんじゃなくて。俺が君に届けの風早くんだったら、間違いなく青春には無縁の人間を圧倒的な絶望の淵に叩き落としてる。幾度となく叩き落としてる。良かったな俺が風早くんじゃなくて。君に届けに登場する風早くんじゃなくて。


ただ、素晴らしいだけが青春ではないんです。青春は時に残酷だ。本作はそこを非常に丁寧に描いている。物事の二面性といいますか、美しいものには棘がありまして、青春もまた例外ではない。そこには裏切りが存在する。


これは僕の根拠のない持論になるんですが、本作のテーマは"裏切り"だと思う。青春時代の裏切りって、良くも悪くも誰しも経験することだと思うんです。これに関しては風早くんも1度は経験してると思う。経験してないなら風早くんは本当に死んだほうがいい。ただ、思春期における裏切りというのは非常に過酷なもので、大人になり社会に出てしまえば関わらないように自衛することも難しくないのに、学校やクラスという枠組みではそれが容易いことではない。青春にはこのような残酷な側面も存在する。


そして本作でも青春という大枠の中に裏切りがある。人を裏切るという行為は一見、裏切られた側が辛いと思われがちだ。でもこれは間違ってるんです。僕自身、心の何処かでずっとそう思い続けていた、裏切られた側はそう辛くはないんだ、と。本作は正にそれを証明してくれた。いや本当に、この映画はすごいぞ。裏切った側が辛いんだよ。


裏切られた側はそう辛くはない。これはあくまで裏切った側との比較という意味です。裏切られて辛くないわけがない。当たり前なんですけど、裏切られることってすごく辛くて悲しいことなんですよね。でも、裏切られた時はその裏切った相手に怒りの感情をぶつけることができる。相手を恨むことも怨むこともできるし、他の誰かに愚痴ることだってできる。だけど、裏切る側になった時、自分が相手を裏切った時ってもうどうしようもないんですよ。感情の持って行き場がない。


本作はここの視点が非常に丁寧に描かれています。青春時代の高校生が持つ、繊細な感情の機微に至るまでを。ところで、青春って素晴らしいじゃないですか。裏切りのような辛く悲しいことも、青春は人を成長させてくれるんです。本作はそこを伝えたいんだと僕は解釈しました。でも、青春の素晴らしさに気が付いた時には例外なく、青春は終わっているんです。青春は短い。桜と一緒。青春は儚いからこそ美しい。
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