zhenli13

ドリーの冒険のzhenli13のレビュー・感想・評価

ドリーの冒険(1908年製作の映画)
3.8
資料として観た。
さまざまな映像手法が「発明」される直前の工夫がよくわかる。

固定カメラで、基本的にワンシチュエーションワンカットのロングショット。
モンタージュや画面サイズの変化やカット割などがまだ無く、牧歌的かつ単調な画面になりがちなところを登場人物の性格や背景を役者の動きだけで過不足なく説明している。
ドリーの両親がそれなりの地位と見識があり「幸せな」家族であることも、ジプシー夫婦にいかにもな「悪」が付与されていることも、服装や動き、その他の役者との関係によって端的に表されている。

いわゆる省略の手法がまだ確立されておらず、ジプシーの男がドリーを抱えて逃げるシーン、馬車が走り去るシーンなど移動を伴うカットはフレームイン→フレームアウトまでが律儀に映されている。
しかし、馬車が画面左上から右下へ抜け、次のカットは馬のお尻のアップが右下からフレームイン→幌から樽が川へ落ちる→馬車は左上へ抜けるという、イマジナリーラインに則ったつなぎの萌芽ともいえるカットも見られる。

(ドリーを抱えて逃げるシーンは、ジプシーの男が正面右下へ向かってジグザグの道を走るロングショット。これ…もしかしてジグザグ道3部作でキアロスタミがオマージュしているのでは?)

フレームイン→フレームアウトの律儀なカットの最たるものが、樽に詰められたドリーが川をどんぶらこと流れていくシーンだ。このシーンのカットは全て、樽がフレームインしてからフレームアウトするまでしっかり映されるため、急に時間の流れが緩慢になる。
樽が川を流れるシーンは、どうやって子役を危険な目に遭わせずに「冒険」を描写するかという工夫の産物なんだろうか。メリエスなどのトリック撮影の手法活用ともいえる。

樽的なものに閉じ込められた誰かが川に流されるというシチュエーションは、後年のあまたの冒険アクション映画にさんざん影響を与えているだろうな。
zhenli13

zhenli13