滑頭

エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中にの滑頭のレビュー・感想・評価

5.0
リンクレイターすげえ〜〜。
一見、中身のない会話しかしてなさそうで、中身のないエピソードばかりが連なっているようで、要所要所に金言が散りばめられ、でも良いこと言ってるだろ?みたいな目くばせは全くなくて、さりげない演出で、しっかり「人生」を描いている。
また、分かりやすい起承転結もなくて、いわゆる映画文法みたいなものには全く当てはまってないんだけど感動する。面白い。リンクレイター独自のやり方だ。凄い。
オープニングクレジットとタイトルバックも地味で、ザ・ナックのMy Sharonaと共に、車を走らせる主人公の姿を映して始まる。そこに主人公の独白とか、そういうクサい演出はない。必要最低限。必要最低限のカットを映してMy Sharonaをかければ、これから大学生になる主人公の青春映画が始まった、って誰でも分かる。
全体を通して控えめな演出。なんだけど過不足ない。必要最低限。
なんとなく始まってなんとなく終わる。まるで途中から始まって途中で終わるような感じ。スクリーンの中の登場人物たちの、人生の断片を見たような感じ。でも、2時間彼らと共に過ごすことによって彼らと友達になるには十分だし、映画館を出た後も、彼らは生き続ける。
リンクレイター的世界観の構築。もはや職人芸。なかなか真似できないコレは。巨匠だなぁ。コレ観てから『6才のボクが大人になるまで』を見返したら、きっともっとエモいんだろうなあ。見返そう。
僕が常々言ってる、青春映画の良さは「終わりの予感」だ、ということがこの映画にも通用するのか。この映画は、新学期のスタートをゴールにして進んでいくから、「青春の始まり」を描いた映画で、一見、僕の言う「終わりの予感」は全く無いように見えるかもしれない。能天気に遊び呆ける彼らには。でも、ちゃんとこの映画にもその要素はある。それを請け負ってるのはウィロビー。ウィロビーのエピソードが、その要素を請け負ってる。「今を楽しめ。永くは続かないから。」青春を終えた人間側の意見だ。今の彼らにはまだ分からないかもしれないけど…。
そういう、細かなエピソードやセリフやカットの積み重ねが本当に上手い。例えば、"野犬"ことデトロイト出身のジェイ・ナイルズが、サウンドマシーンのバーテンダーと騒ぎを起こすシーン(このシーンも本当に最高だった。一番好きなシーンかも。)でのとあるワンカット。バーテンダーがナイルズに飛びついて殴り合いになった時、野球部の皆は喧嘩の仲裁に駆けつけるんだけど、同じく駆けつけようとするマックをローパーが「お前は待ってろ」と言って止める、というカット。これ、何で止めるのかって言ったら、マックはドラフトが来ててチームの中で一番、プロに近い選手だからなんですよね。もしその喧嘩に関わってそれが大きな問題になって厄介なことになったら、せっかくプロになれるかもしれないマックの経歴にキズが付いて、足を引っ張ってしまうかもしれないから、ローパーは「お前は待ってろ」と止めるんですよね。秒数にしたら1秒くらいの本当に短いカットなんだけど、このワンカットがあるのと無いのとでは全然違う。こういう細かいカットで、コイツらの"チームプレー感"とかを上手いこと表してる。
素晴らしい。リンクレイターの脚本、演出力。凄い。本当に。
しかしこの映画を観ると、高校時代を思い出す。男子校だったから、まさしくこういうノリ。こういうヤツらが集まってた。
本当にコイツらが最高。個性はバラバラで、リーダー格とか適当なヤツとかよくしゃべるヤツとかマヌケなヤツとか目の当てられないバカとか、色々いて、お互いのことをイジったり、イタズラしたりするのがコミュニケーションで、イライラしてあたっちゃう時とかもあるんだけど、心の底の部分ではお互いのことをある程度認めてはいて、何があろうとチームなんだというのが暗黙の共通認識としてあって、いざという時には一致団結して、チームのために全力になる。一つ屋根の下で暮らしていて、まるで家族のような間柄。ギャング映画にも似てる。そんなヤツらがいざ野球となると、やっぱり上手いってのも最高。
脚本と演出も素晴らしいし、演じる俳優たちも素晴らしい。キャスティングも素晴らしいし、演技も素晴らしい。ほとんど全員無名だけど、そこもまた良い。コイツらにまた会いたいと思う。コイツらの姿を、もっとずっと見ていたいと思う。それは良い映画の証。
いつまでもコイツらのことを見ていたいし、コイツらのことを話していたい。今年の洋画ベスト。

2016/12/07 @新宿武蔵野館
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