ぬ

ククーシュカ ラップランドの妖精のぬのレビュー・感想・評価

4.0
フィンランドの最北端にあるラップランドが舞台のロシア映画です。
第二次世界大戦中という時代背景とは裏腹に、ユーモアのある映画で、面白いエピソードとシリアスなシーンのバランスがいい。
ただひとつ、ジャケットとタイトルが非常に残念。
北欧というイメージのみでつけられた妖精というテキトーな副題…
むしろとても人間味溢れる物語なのに。
ジャケットの残念さは映画を観たあとに気付くことでしょう。
笑えるシーンもたくさんあるけど、タイトルやジャケットから醸し出されるようなファンタジーとかほっこり系の映画ではない。

ラップランドでフィンランドとソ連が戦争をしていた第二次世界大戦末期。
懲罰のために岩に縛り付けられ置き去りにされたフィンランド軍人と、粛清のため連行される途中に誤爆され負傷したソ連軍大尉が、サーミ人のアンニに助けられ一緒に暮らし始める。

それぞれがフィンランド語、ロシア語、サーミ語を話し、お互いの言語を理解できない。
言語でのコミュニケーションが取れない状態での奇妙な共同生活か面白い。
ときには言葉がわからないせいで誤解が生じたり、一方で言葉がなくても気持ちを汲み合ったり、感情を共有できたり…

女ひとりで原始的なサーミ人の生活をしながら、近くで亡くなった兵士たちを埋葬してやったり、言葉もわからない傷ついた兵士二人を自分の小屋にかくまい、言語の違いも笑い飛ばして受け入れる、サーミ人のアンニの優しさや懐の広さが偉大…
自由で、強くて、生命力あふれるチャーミングでとても魅力的なひとだ。

夫を戦争に取られ、爆撃や兵士たちの亡骸と隣り合わせに生きるアンニ、大学で明るい将来を夢見ていた最中に戦争に駆り出されてしまったフィンランド人のヴェイッコ、戦争に魂を抜かれてしまったと嘆く詩を愛するロシア人のイワン、と、それぞれが戦争に苦しみ疲れきっている状況で、シリアスなシーンも出てくる。
でもそんな状況の中でもあたたかな雰囲気と明るい笑いがあふれていて、戦争や、言語や文化の違いや、相互理解についてなどを、切実ながらもやさしく、映画を見た人へと問いかけてくる。

普段はめったに知ることのできないサーミ人の文化や暮らしを、映画を通して知ることができるのもいいね。
トナカイに話しかけるシーンは生活をともにする動物たちへの敬意が伝わってくるし、映画の要所要所で垣間見られる自然に対する考え方や死生観などがかなり興味深い。
サーミ人の抱く冥界というかこの世とあの世の境目のイメージが、まるで日本の三途の川のようで驚いた。

ロシア映画って、こういう佳作が結構ごろごろ転がっている気がする。
そしてそういうロシア映画がもれなく大好き…お気に入り映画に入れました…
ぬ