磔刑

バーフバリ 伝説誕生の磔刑のレビュー・感想・評価

バーフバリ 伝説誕生(2015年製作の映画)
2.7
「バーフバリ!バーフバリ!(強迫観念)」

前半は絵に描いたようなボリウッド・ミュージカル。一転、アマレンドラ・バーフバリの半生を描いた後半はミュージカル要素少なめのバトルエンターテイメントに仕上がっている。

前半はミュージカル調でストーリーを語る事が多い分、世界観や物語進行が抽象的で掴み難い。それに反して過去編は正統派の演出で分かり易いのもあって率直に面白いと思う。
しかし、前半と完全に二分された過去パートを観ていると「これなんの話してんねん。シヴドゥは何してんねん」とか、「いやいや、この回想長過ぎ。えっ?回想じゃなくてこれも本編なの?」とか、「もしかして、自分が気づいてないだけでいつのまにか現代に戻ってる?」って言う不安に似た雑念が過ぎりまくってしまった。実際、ここまで本腰を入れて過去パートを描くとは思わなかったし、主役のシヴドゥのバックボーンと動機を埋める為の回想シーンが主役を喰っちゃうって結構ヤバイ構造的欠陥だと思う。解決すべき問題は現代にあるにも関わらず、結果が見えている過去の話を長々と語られても問題の解決(本編)には一切進展が無いのだから、最低限に止めるか時系列順に描くべきだ。

また、シヴドゥに今ひとつ魅力を感じられないのはその動機の弱さにある。“運命に導かれている”と言えば聞こえは良いが、冷静に見てると単に流動的で場当たり的な思考で偶然そうなっただけでは?と思ってしまう。アヴァンティカの任務を引き受けるのも男気があると言うよりは只の安請け合いにも見える。それらのシヴドゥの突発的な行動から動機や思考が読み取り難く、それゆえ感情移入もし難い。それに本編と見間違う過去パートの濃密さを見ているとシヴドゥは自分の父親の武勇伝を聞く為だけに遠路遥々来ただけの様にも思え、狂言回しに近い印象を受けてしまう。その為、益々彼の主人公としての説得力を弱く感じてしまう。
時系列を逆で描くドラマもシヴドゥが活躍する多くのシーンにカタルシスを感じ難くくしている。物語で最も重要な要素である“復讐”の自覚無く行動している事も大きな要因の一つである。結果的にはシヴドゥのストーリーに特段大きな進展が無く、彼の動機を作る為だけにしては二時間越えの上映時間は長過ぎる。

ボリウッドは自分の守備範囲では無い事もあって見慣れない突飛な映画文法で演出される事が多く、順応するまでかなり時間がかかった。なんなら過去編に入ってやっと集中して観れた感すらある。
なんでもかんでもミュージカル調に演出して伝わると思ってるのがヤバイと言うか、そこは国民性の違いだから仕方ないかも知れないが。感情の変化や物の成り行き、状況の変遷を一曲の音楽、歌詞、ダンスにその全てを託すのは流石に無理がある。音楽はそこまで万能じゃないし、観る方もその詰まりに詰まった情報を事細かに読み解く能力は無い。まぁ、インド式暗算術が使えたり、座禅を組んで空中浮遊したりテレポートし、口から火を吐く伸縮自在のインド人からすれば造作もないのかもしれない。
私的には前半の多くの演出の右下に“※これはイメージ映像です”って注釈がぼんやり見えていた。

黄金の像を引き上げるシーンや王位を推戴するシーン。カッタッパのスライディング「バーフバリ!」なんかは確かに「バーフバリ!」って言いたくなる。しかし、一部の人の熱量程のエモーションは感じれなかったのが正直な所だ。
その圧倒的に男臭いビジュアルから繰り出される情感たっぷりの演出の数々は『300』や『マッドマックス 怒りのデス・ロード』とよく似ている。だが一つの作品としての纏まりの良さを考えると上記2作の方が抜きん出ているのは間違いないだろう。ボリウッド的演出が類似作品との差別化を図る大きな要素ではあるが、好き嫌いを大きく二分する要因でもある。
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