ゆりな

ポンヌフの恋人のゆりなのレビュー・感想・評価

ポンヌフの恋人(1991年製作の映画)
4.0
「海を見たことある?」
「ない」
「水平線は?」
「見たくないね」

汚くて、埃を吸うように苦しくて、生きるのが辛い。加えて、若者らしい怒りに満ちた映画。

1991年のフランス映画と言えば、リュック・ベッソンがブイブイ言わせてきたところで、「ベティ・ブルー」のベアトリス・ダルの面影を残すヒロインも多かったんじゃないかな〜。
って思ったらこの3人の監督、BCCと言うフランス映画の一時代を築いたニューウェーブだったそう。通りで。
レオス・カラックス、若いじゃあんと思ったら、この映画の公開時31歳……若い……。

冒頭のフランスの貧富の差。幾度となく言ってしまうけれど、チャップリンの映画とは違い、いつだって恋を引き裂く大きな原因のひとつはお金もとい身分の差だ。「ジョゼも虎と魚たち」のラストはあまりにも切ないけれど、あまりにもリアルだ。

ミシェル役のジュリエット・ビシェルは野良犬のようにギラギラしていて、ミシェル・ウィリアムズのような少女さがあり、赤いコートがよく似合う。黄色いジャケットにオレンジのシャツ。GINZAやVogue Girlが好きそう。
確かに全編通して美しく芸術的でそれで完全に理解させてくれなくて、Bunkamuraの美術館にいるような気分になる。

莫大な製作費になったのも納得だし、やっぱり花火のシーンはすごい!ド派手なアクション映画並みだし、今じゃ撮影できないしCGにない良さがあった。

以下ネタバレ


これ「ローマの休日」のように、たった一日や短期間の話かと思っていたら、違うのか!僅かな季節の恋物語と思ったら、半年経っていて、痛いくらいの愛の話だった。「ベティ・ブルー」といい、擦り切れるような愛の物語、好きすぎるだろうフランス人。
気がついたら、ミシェルとアレックスがホームレスじゃなくて、身なりがしっかりしだして驚いた。

荒くて痛々しいのに、カルト的に熱狂される映画にもなるのが分かるくらい、時々ドキリとする。2人にしか分からない素敵な甘いセリフを残す。「私の白い杖になって。」
そんなミシェルが2年ぶりにアレックスに会うシーンでは驚くくらい、詩的にスラスラと言葉を述べていてびびった。2年前は言語化できていなかったのに……これが愛なんだろうか。

油絵のカンバスみたいな、さまざまな色まとっていたミシェルが、ラストは真っ白なコートを着て現れる。
わたし絶対、非恋で終わると思ってたんですよ。ところが、最後に奇跡のような展開が見られるんですね。

この映画、2年後に再会しなかったら哀愁ただよう映画、でも再会できたからハッピーエンド。わたしたちの人生もどこで切り取るかによって、バッドエンドにも見えるし、ハッピーエンドにもなりうるし、チャップリンもそう言っていた。
(レオス・カラックスは絶対にチャップリン作品を観たし、影響されてると思うんだよなぁ。)

冒頭で息苦しい映画と書いてしまったけれど、ラストは雪の冷たくて新鮮な空気を一緒に吸っているような気分になった。
はじまりと終わりでこんなに雰囲気変わる映画も珍しいし、純粋にすごいと感じた。

好きなブロガーさんが「ラ・ラ・ランド」のレビューで「生きるのって退屈なんだよ、だから人は夢を持つ」って評していたけれど、本作は「生きるのって退屈なんだよ、でも一つの愛で変わるかもしれない」って言いたくなる。
かっこ悪くて痛くて特別で掻き乱されて。見栄えが綺麗なことだけが「愛」じゃないし、2人の視線が焼き付いて離れない。
これ、すごく特殊でいい映画でした。
ゆりな

ゆりな