ちろる

無伴奏のちろるのレビュー・感想・評価

無伴奏(2016年製作の映画)
3.8
学生たちがこぞって態勢に反発して学祭運動を繰り返していた1969年。
このものがたりの主人公響子もそんな時代の波に乗せられながら有り余る情熱を大人たちへの反発のために注いでいた。
ボリス ヴィアン、倉橋由美子、カミュ、金子光晴、ボードレール、ビー・ジーズ、サガンこれらは響子の愛した世界。

学生運動していた人たちの本音はベトナム戦争も安保もどうでもよかったりする。
時代の勢いに巻き込まれて、それを主導していくことで生きることを実感するだけだったりして・・÷
感情の血を流しながら、血管のドクドクが絶え間なく聞こえる。
何かについて叫びたくて、暴れたくて、けど実のところそれがしっかりとした社会的信念ではなく、ありあまった自分の欲望のせいだけだっただけなのかも。
ある時それらの欲望が性というカタチで満たされれば案外世の中のことに急に無関心になれて脱落していく人もいたのだろう。
きっとこの時必死で拡声器で叫んだ若者の殆どが、卒業したあとに流されて本当はなりたくなかった存在になってるはずだから。

大義名分は社会を変えたい、汚れた大人たちの世界を一掃したいだったけど、
しかし大学に在籍するほんとの理由は社会から何にも言われない時間を作りたかった。
めちゃくちゃに生きても頭良さそうと言われたいから。
とか、多分当時の若者ならではの本音と建前の部分を入れ込んだ脚本たちが生き生きと身体に染み入る。
こっぱずかしくなるニヒルな雰囲気も、この物語に浮遊する秘密の空気と沈黙の余白をうまく使ってぐっと引き込んでるこの作品の雰囲気は好みだ。

響子は曖昧な態度を繰り返す渉に惹かれながらも、まるで影のように見え隠れする彼の姉や親友祐之介の存在に戸惑う。
甘美な欲望を手に入れたせいでその関係性の曖昧な現実たちに目を瞑っていくその先にあるものとは・・・
散々こねくり回しておいて、恋とは実にシンプルなものだと解こうとする。
そんなところがまさしく小池真理子の世界。
個人的にキャスティングに所々気にくわない部分があったものの、独特の空気感が忘れられない作品でした。
ちろる

ちろる