いっせー

ウォー・マシーン:戦争は話術だ!のいっせーのネタバレレビュー・内容・結末

3.5

このレビューはネタバレを含みます

邦題を見た瞬間『圧倒的トーク力を持つ男が軍の士気をモリモリ上げて敵に勝つ映画かな?』と思った。
が、次第にその認識が誤っていたことに気がつく。

舞台は8年経っても戦いに終わりが見えない、紛争真っ只中のアフガニスタン。
「アメリカは戦いに勝てないときどうするか?……簡単だ。”勝てない司令官を解任して、後任を送る”」
これは冒頭で流れるナレーションだが、アフガニスタンも例に漏れず司令官の据え変えが行われることになった。そしてその後任者こそがブラピ演じるマクマーンだ(モデルとなった人物はスタンリー・マクリスタル)

マクマーンは軍人一家に生まれ、頭もよく、男女問わず多くの人間に慕われている、まさに主人公にふさわしい男だ。
『なるほど、この男ならたしかにアフガニスタン紛争を終わらせられるかもしれない』
映画を見る人間の多くがここでそう感じることだろう。だが、現実はそうあまくはなかった。

まず最初に彼がぶつかる壁は「兵士の士気の低さ」だ。
軍は「テロ組織から一般市民を守る」という大義名分の下活動を行っていたが、多くの兵士にとってアフガニスタンは母国でもなんでもない。
母国を守るための戦争ならいざしらず、縁もゆかりもない土地の人間を命を張ってまで守ろうという気概のある人間はほとんどいなかったのである。加えて、テロリストと一般人の見分けが付かないのも戦意を削ぐ原因の1つであったようだ。相手が銃をこちらに向けるその瞬間までこちらからは一切攻撃ができないのだから、兵士が萎える気持ちもよくわかる。

次にぶつかる壁は「自分と周りの温度差」だ。
彼は良くも悪くも自信家で、「俺がこの戦いを終わらせる」と豪語していた。……が、前述した兵士しかり、政府しかり、多くの人間が思う「終わらせる」とマクマーンが思う「終わらせる」のベクトルは全く違う方向を向いていたのである。マクマーンはテロ組織を壊滅させ、そこに住む市民達がより良い生活を築けるような土台ができることをゴールとしていたが、多くの人間にとってはそんな理想論なんてどうでもよく、「なんでもいいから早く終わらせてくれ」というのが正直な所だったのだ。
そんなある日、公的な場で記者に「あなたが良い人なのはわかります。ですが、それはあなたのエゴなのでは?」と言われ、マクマーンは言葉につまってしまう。
あまつさえ、マクマーンが「守っている」と思っていた現地民からも「学校や道路を作ってくれるのはありがたいが。アメリカ軍が撤退したら全て無駄になるだろう。あなた方が長くいれば居るほど撤退後に混乱する。だから今すぐ帰ってくれ」と言われる始末。この頃にはマクマーンの士気も相当下がりきっていたはずだ。

これらにとどめを刺すように、「マクマーンが政府高官の悪口を言ってた」とローリングストーン誌に記事が掲載されてしまう。直属の部下達が怒り慌てふためく中、彼は文句1つ言うこと無く、そっとアフガニスタンを去る覚悟をするだった。
映画の最後には最初のマクマーンのように自信に満ちた顔で歩く後任司令官の姿が映って終わり。

つまるところ
「アメリカは戦いに勝てないときどうするか?……簡単だ。”勝てない司令官を解任して、後任を送る”」
というナレーションが全てだったわけである。マクマーンも当初は「前任の指揮官が悪いから勝てないんだ。俺が勝たせてやる」と意気込んでいた。
しかし、前述したような壁にぶつかる中で自分の認識が間違っていたと気づいたはずだ。

「勝てないのは司令官のせいじゃない」と知っていた現場の兵士たち。
それにあとから気づいたマクマーン。
最後まで気づくこと無く、相変わらず「司令官が悪い」と思ってる政府高官と後任の司令官。
これらすべてを皮肉ったのがこの映画である。

風刺が好きな自分的には楽しめたが、人にすすめるほど面白いかと言われると『うーん』って感じ。
オバマを名指しで批判するシーンもあるので、ハリウッドだと映像化しづらい作品かもしれない。NETFLIXやるなぁ。
いっせー

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