レインウォッチャー

ジーサンズ はじめての強盗のレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

3.5
さあ、あなたの「推し爺」はだれ!
・聡明でジェントルマンなジョー(マイケル・ケイン)?
・家族思いで懐の深いウィリー(モーガン・フリーマン)?
・アーティスト気質が魅力的なアル(アラン・アーキン)?

クライムコメディに「おじい」をかけあわせることで、まさに縁側のようなスローさと暖かさが全編を包み、笑いも皮肉と優しさのバランスが絶妙だ。もうこの三人を眺めているだけで粋な時間になってしまうのがずるいところ。会社や銀行の都合で年金を失ってしまった、という「虐げられた老人」を襟元ダルダルポロシャツで演じつつも、さすがは歴戦の名優というべきか、隠しきれない紳士っぷりや鋭い眼光が垣間見えるのがおもしろい。展開も、高齢者というギミックをところどころで生かしつつ、骨格はごくシンプルな「負け犬たちのワンスアゲイン」のカタルシスを裏切らない。
劇中に流れるポップスの選曲がまた洒落ている。アメリカンおじいらしいルーツ感のあるオールディーズの中に、突如マーク・ロンソンやATCQといったファンク/ヒップホップが切り込まれるのが痛快だ。

ここまでだとじゅうぶん星4の「好きな映画」認定待ったなしかな、と思っていて、きっちり打ち上げシーンで終わる観賞後の後味も悪くなかった…のだけれど、何かが喉にひっかかった。
一晩寝かせて気づいたのは、やはりストーリーの着地である。あの銀行員や捜査官は確かにそれぞれ狭量でクズかもしれないが、けして「悪人」ではない。ある意味、彼らなりに職務をまっとうしたに過ぎないともいえる。この顛末を経て職を失うまではなくとも降格などの処分をくらうかもしれないし、主人公たちにとってはヴィランであっても彼らにだって家で待つ家族がいるんじゃあないか…。コメディに何を求めとんねん、という意見もあるだろうけれど、作品として老人のQOLや格差社会に切り込むのであれば、そちらの視点も持ってほしかった。主人公たちが「老人(弱者)たちにだって人権があるんだ」と拳をかざすのであれば、「じゃない者だってそうだ」と言いたくもなるものだ。
このズレ感に、欧米(というかキリスト教圏?)における「利己的であること(恵まれた利益の分配をやめる行為)」って我々が感じる以上に悪として見なされているんだろうなあ、ということを思ったりもした。

とはいえ総合的には小器用にまとまった、楽しくピースな映画です。時間も手頃でおすすめしやすい