まりりんクイン

マーシュランドのまりりんクインのレビュー・感想・評価

マーシュランド(2014年製作の映画)
4.1
[鑑賞前]

「殺人の追憶みたい!」
だなんて騒がれた日にゃあ、
殺人の追憶大好きマンの私としては黙っちゃおれんわけですよ?

て言うかねぇ、皆さん。
「殺人の追憶みたい!殺人の追憶みたい!」って…
そう軽々しく口にするもんじゃないですよ…?
それ、
「あの田舎サイコサスペンスの大傑作と同等だ」
って意味ですよ?
わかってんですかねぇ…?ったく…
パッケージにはなんか「圧倒的評価!」とか煽って随分とデカく出やがってるし…

そんなに言うんなら観せてもらおうじゃないですか…
「殺人の追憶みたいな圧倒的評価」って奴をよぉ……!!



[観賞後]

殺人の追憶みたい!!!!!
大好きぃ!これ大好きぃ!!!!


冒頭、
まるで人間の臓器の一部を思わせるような不思議な切り取り方の、凄まじく美しい風景の空撮から、風格十分。
「この土地で嫌な事が起こる」感がビンビン出てます。

この冒頭に限らず、本作は空撮が非常に印象的。
まるでCGではないか?と見まごう程の美しさです。

タイトル開け、主人公の一人であるベテラン刑事が、トラックの荷台に乗って現れるのは明らかに追憶オマージュですね笑
完全に「そこを目指してます」宣言ですね。
その意気や良し!!

お話の筋的には、皆さん他のレビューでおっしゃっている通り、非常に類型的な猟奇殺人物と言った感じですが、本作はそれを彩る時代と場所の設定が見事です。
またどうやら、
「主人公の2人のキャラが薄い」という感想の方も同じく結構多いようですが、
この映画における真の主役は、

「フランコ独裁政権の影が未だにちらつく、1980年のスペインという時代と土地」

そのものであり、主人公二人も、そして本作で描かれる猟奇殺人も、その中に組み込まれているに過ぎない。
だからこその、
「ここで起きてることなんだ」ということを強調する為の
空撮使いなんだと思いました。

単純にアンダルシア地方の風景の見事さにも目を見張らされます。
広大な荒れ野と、ジメジメした湿地帯が同時に存在していて、この舞台立て自体が
「旧体制と新体制の間で揺れるスペイン」を表現しているようでした。

っていうか、刑事達2人のキャラクターだって素晴らしいじゃないですか!
確かに最初はよくある
「ダーティなベテランと理性的な新人」って感じに見えるんですが、
話が進むにつれて、

・どうやら新人は旧体制に対して反抗的(それが原因で左遷された)
・そんな正義漢ではあるが、どうやら新人は血を見た経験はあまりなく、すぐ熱くなってしまい、尋問や殺しは苦手(そしてベテランの尋問は実に的確…)
・ベテランは旧体制時は秘密警察の実働部隊で、その時に沢山人を殺してるっぽい(この辺めっちゃ伏線貼りつつも最後までグレーなのも良い)
・そのためか、ベテランは拷問や暴力が実に鮮やかで、躊躇が無い(ラストのナイフ使いに戦慄!)
・どうやらベテランはその過去が原因で心が病んでるっぽい(寝起きが早いのもその為?それか秘密警察にいたことの伏線かな…?)

・そしてどうやらベテランは…

というような、
2人の共通性や、そして相棒同士であっても決して2人は交わることは出来ないであろうことを仄めかす過去が次第に明かされ、絶妙に見せ切らないギリギリのバランスで描かれ、深みを与えています。
今までにないバディ感がとても面白い。
2人とも非常にダンディで色気があるのも良いですね!

また、最初は反目し合っていた2人が事件の悲惨さを目の当たりにして、解決に向けて心が一つになることを、
「タバコに火を貸す」
という描写一発で表現したりと、全編通して抑えた演出が冴え渡ってます。

また、女性の描き方も独特で、この時代における若い女性の地位や、
如何に職を持ち、現状を変えることが夢のまた夢出であったのかが執拗に描かれ、そのことを強調するかのように
、登場する少女達が総じてあからさまに美少女ばかりだったのが印象的でした。(単純に監督がロリコンの可能性もあり)

そしてラスト、
事件は「万事解決」したにも関わらず、
「この国が抱えている闇」という根本的な部分は何も解決してい無い。
暗闇が広がったまま放り出され、美しい空撮が荒涼としたスペインの大地を映して終わる。
最高に後味の悪い終幕。

たまりませんねぇこうで無いと!!

結局明確に真犯人がわからない。
DNA判定一致しませんでした的な、どうとでも取れる宙吊り感も実に追憶的。

といわけで完全降伏状態でした。
「殺人の追憶みたいな圧倒的評価」
うん。名乗って良し!!!

田舎サイコサイコー!!!!

【以下考察】
終盤でファン刑事が事件へ関与していたのでは、という疑惑が浮上しますが、個人的にはそれは無いかなと思ってます。彼が真犯人だとすると、捜査中に彼が取る言動の辻褄が合わない所が多々出てきます。
恐らく旧体制側の上層部から、「事件のヤバい部分が明るみに出ないよう、上手いこと揉み消せ」的な命令を受けてマドリードからやって来た、という感じでは無いでしょうか。そして、ファンには「そんな自分を許せないが、変えられない」と言った感情が伺えます。
ファイについて、劇中で何度か「空を飛ぶ鳥を眺める」という描写がなされています。これは、何にも縛られず、「自由に空を飛ぶ鳥」と「未だ過去に縛られ身動きの取れない自分」を比べているのでは無いかと思いました。
一度染み付いてしまった習慣からは、変わろうと思っても中々抜け出せない。
現在も尚、スペインの人々の生活、思想にフランコ政権の爪痕が根強く残っている事への示唆なんだと思いました。
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