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クリーピー 偽りの隣人のsatoshiのレビュー・感想・評価

クリーピー 偽りの隣人(2016年製作の映画)
4.3
 2016年に公開され、黒沢清映画の中ではちょっとだけヒットした映画。黒沢監督作は大分前に『CURE』を観ただけ。そんな私が本作を観た理由は、「世界最恐の映画監督 黒沢清の全貌」を読んだから。この本で黒沢清さんがどんな意図でシーンを演出し、映画を作っているのかが分かり、俄然興味が出てきたので、「ベスト・オブ・黒沢清」の呼び声高い本作を鑑賞した次第です。ちなみに、本作は2018年最後に観た映画になります。

 ネット上では賛否が割れている本作ですが、個人的には素晴らしい作品だと感じました。確かに、ミステリーとしてはグズグズだし、登場人物の行動は意味不明だし、ストーリーも突っ込みどころしかありません。ただ、それでも私が本作を素晴らしいと思う理由は、本作の1シーン1シーンから滲み出ている不穏な雰囲気が素晴らしすぎたから。ずっと緊張して見入ってしまいました。映されているのは私たちの日常にも当たり前にある風景なのですが、風や、会話の間、背景にいる何てことのない人間、そして移動している間に変わる画面の明暗といった要素とテクニックを駆使して我々の不安と緊張を煽り続けます。故に観ている間はストーリー的に杜撰でも、全く気にならず観ていられました。

 話の内容も何となくでしか分からないのですが、「世界最恐の映画監督 黒沢清の全貌」で誰かが書いていた「黒沢監督は夫婦の話を描いてきた」という記述を基にして考えてみると、本作も「夫婦の話」であることが分かっててきました。確信したのが終盤で竹内結子が眠っている西島秀俊の世話をするシーン。あそこの竹内さんの満ち足りた表情を観て確信しました。「あ、この人今幸せだと思ってる」と。そう考えれば、西島秀俊の空っぽ演技も納得です。彼は自分では常識人ぶってますが、観ればわかるように、かなりヤバい奴です。そいつが事件にのめり込んでいくに従って竹内結子の気持ちは不安定になっていきます。要はもっと一緒にいたいんですね。だからこそ、彼女はラスト付近で出来上がった「偽りの家族」の中にもどこか幸せそうな感じを出しているのだと思います。しかし、それ故にラストのあの展開は、もう夫婦の仲に取り返しがつかない断絶が出来てしまった気がしました。でもああしないと最悪な展開ですけどね。

 西島秀俊が「一見普通のサイコ」だとしたら対する香川照之は「目に見えてサイコ」な存在です。最初こそ要領を得ず、噛み合わない会話で笑かしてくれましたが、後半になってそのサイコパス感が心の底から恐ろしく観えてきます。本当に自分のしたことに責任を感じてない演技は圧巻でした。

 このように、私にはバッチリハマりました。これから監督作を追っていこうと思います。時間あればね。
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