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永い言い訳のamuのレビュー・感想・評価

永い言い訳(2016年製作の映画)
3.5
全ての者がそうではないが、小説家含む芸術によって自分の存在を表現する者はとかく自己顕示欲が強く、プライドが高い。それは劣等感の強さや本質的な虚無感に比例しているのでは、と思う。育った環境や生い立ちでこういった人格が形成されるのだろうが、彼の場合のプロローグは大学生の時からのものとはいえ明確だ。

自分がやっとの思いで二浪して入った大学には現役で入学したにもかかわらずさらっと中退して美容師になり、その人生を謳歌する元はクラスメイトだった妻。彼女に書いてみたらと言われ書いた小説で成功したことも、俺は作家先生だぞと偉ぶりたい編集者達の前で普段通り下の名前で呼ばれたことも、著名な野球選手と同じ名前なことも、自意識過剰な被害妄想で悪態をつく。卑屈な解釈、妻への激しい劣等感、何故、この二人は結婚に至ったのか。別れることなく長年連れ添った理由すら浮かばない。妻が送信せずに残した文章は、自分が感じている夫の気持ちを書いたものだと思う。

彼の虚無感はさらに身体の関係を持つ女性の存在でも明らかで、人によく思われたいという見栄っ張りな部分はエゴサーチに余念が無い様子、妻の葬儀で移動の為タクシーに乗り込むも、まずはバックミラーで自分の顔をチェックし髪を直すという心理からもはっきりと出ている。

情緒の酷さ、人によく思われたいだけの行動。弱い犬ほどよく吠えるという言葉がぴったりの男である。

その男が子供達と触れ合うことで、大事なものに気づいていく姿には、あれほど腹立たしかったにも関わらず、幸せになって欲しいと思わせられた。この子役の二人、特にお兄ちゃんの演技がとても素晴らしい。皆が自然で、ストーリーのテンポも良く中だるみは一切無かった。

また、本木雅弘さんは造形も美しいし演技も巧いのだが、少々アクが強いので、竹原ピストルさんや池松壮亮さんの独特な間を持つ自然体俳優陣が絡んでくれたことでより観やすさがあった。他作品でも池松くんが出ているだけで安心感がある。
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