スコット

永い言い訳のスコットのレビュー・感想・評価

永い言い訳(2016年製作の映画)
3.4
“俺はね、夏子が死んだ時、他の女の人と寝てたんだよー”

人気小説家・衣笠幸夫の妻・夏子が、旅先で乗っていたバスの事故で死んだ。その時、妻のベッドで不倫相手と情事に明け暮れていた幸夫は、少しも泣けなかった。
世間体を気にし、葬式の席やテレビカメラの前で悲劇のキャラクターを演じる幸夫の前に、同じ事故で亡くなった夏子の親友・ゆきの、夫である陽一が現れる。
彼や彼の子供達と触れ合い、充実感に満ちた日々を過ごす幸夫の目の前に希望が見えはじめた、はずだったがー。

突然妻を失った男の悲劇、というよりは、不倫中に妻を失った哀れな男が、改めて生き直していこうと、不器用に、そして不細工にもがく、赦しと再生の物語、といったところ。

ひたすらに濃い作品だった。見てるだけで終始息苦しくなるようなこの空気感は、美しいロケーションの映像とは対照的に、心にずしりと重い何かがのしかかる。
『この主人公クズだなぁ...』なんて思いながらも、“人”より“人の温もり”だけを求めたくなる感覚とか、愛していたけど今はもう愛してない人が突然目の前から去った時、泣けないのに同情されたくて悲劇の主人公を演じてみる痛々しいほどの虚栄心に妙に共感を覚えたり、人間ってそんな綺麗に生きられないよな、とか思ったりして。色々と考えさせられる映画だった。

ただ、“普通”を意識しすぎたような作品中の演技が、個人的には合わなかった。リアルさを狙うがあまり、棒読み演技とさして変わらない役者さんの演技が、だいぶ目立っていたように感じた。

そこへの違和感と、やはり主人公に感情移入がしきれないままに重苦しい物語を120分間見るのはキツい。

それに、ヘビーな題材の割には終わり方が凡庸な印象だし、一度こじれた人間関係が“死がちらつく事”によって修復するという展開も好きじゃない。
言い方はアレだが、既に死んだ人間がいて、遺された人たちがまた死ぬかもしれなくなって、それでようやく彼らの内に秘めた“生”が動き始める...という流れは、個人的に少し安っぽいと思ってしまった。

タイトル通り、全編通して主人公の“長くて永い”言い訳に過ぎない作品なのかもしれないけど、不思議と惹きつけられた作品だった。
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