TAKU

美術館を手玉にとった男のTAKUのレビュー・感想・評価

美術館を手玉にとった男(2014年製作の映画)
3.5
30年間にわたり全米46カ所の美術館に偽物の美術品を寄贈し続けた贋作家マーク・ランディスのドキュメンタリーだが、観ていて思ったのは「はたして彼は贋作家なのだろうか?」ということだ。

親に買ってもらった美術品のカタログを見ながら絵を模写し続けているうちに、自らの模倣の才能を開花させたランディス。しかし、普通の贋作家が金銭目的で行うのに対し、彼は見返りを求めず無償で提供し続ける。また、社会を引っ掻き回そうなんて魂胆もない。統合失調症を患っている彼にとって美術品を模倣することは、自らの心を浄化する行為なのかもしれない。本作を観て連想した映画は、漫画家ロバート・クラムを追ったドキュメンタリー『クラム』だった。ロバートも親からの虐待というトラウマを抱え、「描かないと気が狂ってしまう」と言いコミックを描くことに執念を燃やす。我々人間は表現することなしには生きていけない。話したり、文章を書いたり、物を作ったり。「模倣」という世間一般ではあまり褒められないような行為でも、マークにとっては生きるということの実践なのだろう。

多くの芸術家がそれぞれの得意分野を用いて自己表現するように、マークも「模倣」という類い稀なる才能を使い自分という存在を表現しようとする。そして、その自己表現したものが芸術品ならば、マークの完璧なコピーも同じ芸術品なはずだ。芸術や表現の境界線はどこにあるのかということを考えさせてくれるドキュメンタリーだった。