垂直落下式サミング

クランプス 魔物の儀式の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

クランプス 魔物の儀式(2015年製作の映画)
4.2
スローではじまるオープニングが最高。
嫌いな親戚が家に集まる憂鬱なクリスマスパーティに嫌気がさした少年が、「家族なんていなかったら良いのに」とサンタクロースにお願いをしたことで、サンタよりも古くからいる邪悪な精霊クランプスを呼び寄せてしまう。サンタはクリスマスを信じるものに希望と幸福を与えるが、クランプスというのはクリスマスの本来の意味を忘れたものに戒めを与えるため大切なものを奪って行くというのだ。
登場人物がみんな性格に難があっていけ好かないんだけど、実在感があり人間臭い。この絶対的な悪人が不在な寄る辺なさが、親戚の集まりが如何にクソかを上手いこと表現している。教養のある厳格なお父さんと、できる主婦っぷりをみせたくて気取った料理なんぞを作るお母さん。そのお母さんの妹で、人当たりは良いけど他人の心情に無配慮なおばさんと、その旦那のガハハオヤジでタカ派なおじさん。そして、馬の合わない従兄弟たち。極めつけは、どっちの家族からも鬱陶しがられている子供嫌いな小言ババアまで着いて来てしまう。お姉ちゃんは思春期だし、主人公の味方は父方のおばあちゃんしかいない。
彼等は、みんな内心は顔をあわせるのが嫌なのに、クリスマスだからという理由で義務的にパーティを催し参加しなければならない。そんなことだから、食事中も誰に原因があるわけじゃないのに何だか空気が重くて、嘘をつけない正直者がそれに耐えきれず本音を漏らし、さらに空気が凍り付く。この不毛な光景は誰でもお盆とか正月にみたことがあるだろう。
中盤までは本当にホームドラマ風で、後半の展開は子供向けホラー作品の『グレムリン』や『学校の怪談』を彷彿させてくれるし、描かれる主張もテーマとして誠実。小学校の道徳の授業でみせたっていいはなしだ。何が気にくわなくても、みんなにもうちょっと優しくなろうと思わせてくれる。