あーるえぬ

POV(ピーオーヴィ) 〜呪われたフィルム〜のあーるえぬのネタバレレビュー・内容・結末

3.2

このレビューはネタバレを含みます

やっぱり、背景にいる人がいつのまにか移動してたりする演出とかが上手いんですよね。

追記
こんなにも怖いものに自覚的である監督はなかなかいません。たしかに、この作品(というより鶴田監督作品全般)に出てくる幽霊は、近年のホラー映画に慣れてしまった人からするとあまり怖くないかもしれません。なんとなくここら辺に何か出てくるのだろうな、と思われる箇所にずばりその通り現れ、しかもそれが生きてる人とあまり変わらない姿で出て来るからです。
一見、この映画は他のホラー映画が散々やってきたようなショッカー演出の総集編のようにも見えます。けれども、そのアイデアの中心からは少しずれた部分、あるいはそのアイデアの前後に付随する細かな部分にこそ、見なければならないものがあります。
例えば、最初の二つの心霊映像。一つ目の映像では、「誰もいないトイレの個室のドアが開く」ということそれ自体ではなく、その映像が何回もリピートしていって、その都度、映像が始まる時のカメラの位置がほんの少しずつ、一つ前の時とは違っているという点。二つ目の映像でも、「誰もいないシャワー室のシャワーから水が出る」という所ではなく、大事なのはこの心霊映像がシャワー室の入り口から始まっているということ。そして、シャワーへとカメラがゆっくりと近づいて行き、水が出るということなのです。なぜ、わざわざシャワー室の入り口から映像が始まるのか。そしてシャワーへと近づいていく時の、これはいったい誰が何のために撮影しているのか、という不気味さ。なぜかはわからないけど、とにかく入ってはいけない領域に近づいているのかもしれない、知ってはいけないことを知ろうとしているのかもしれない、という予感にも似たそわそわする感じ。
あるいは、モニターに突然謎の映像が映される場面。その映像は、どこかの屋上らしき場所の地面にカメラが向けられていて、たぶん女性であろう人の足元から映像が始まる。その足元から徐々に、下半身、上半身と、撮影者自身の体をなぞるようにカメラのアングルが徐々に上を向いていくと、最後に女性の顔のアップが映されるところで映像が終わる。この時に怖いのが、女性の顔が映る直前にカメラの向く速度がさらにゆっくりになる。いよいよ顔が大写しになっても、しっかりと顔が見えない角度なのではっきりとはわからないが、口元からして女性が笑っていることがわかる。この映像そのものも怖いのですが、やはりまたしても誰が何のために、そしてなぜ笑っているのか。という映像自体の怖さから、さらに踏み込んで考えた時のわからないことの怖さが付いてくるわけです。
さらに後半に、学校の屋上でマネージャーが自分の足元にカメラを向けている場面がありますが、最初は、またあの時モニターに映った映像がもう一度出てきた、と見てる側は思うわけです。でも実は違ったと分かりホッとした後で、でもいまこのマネージャーはあの映像と確かにシンクロしていたぞ、ということにぞわぞわっとしてしまうわけです。これも映像が怖いわけではなく、うわっ、あの時の映像と繋がっているという不吉な予感のような怖さです。
そしてこの映画で一番驚いたのは、この映画で主人公たちを襲ってきたりする女性の幽霊は、昔、頭がおかしくなって飛び降り自殺をした少女であったというのが後半で判明しますけど、その時に、その少女の頭がおかしくなったのは、この学校の幽霊について色々と調べていてその映像を撮ろうとしたから、ということがわかるわけです。では、少女が調べていた幽霊とはなんだったのか。それについてこの映画では、最後まで全く触れられないままに終わります。おじさんの幽霊や子供の幽霊が途中と最後に出てくるので、たぶん少女が調べていた幽霊はこの人達なのだろうという想像は出来るものの、もしかしたら全く別のことである可能性だって考えられるわけです。全くそんなことは気にもしないで映画が終わり、まだ得体の知れないものが手付かずのままで残っていることに気づいてしまう時、嫌な怖さが残るのです。
あーるえぬ

あーるえぬ