タケオ

ディストラクション・ベイビーズのタケオのレビュー・感想・評価

3.4
 『イエローキッド』(09年)や『MINIFUNI』(11年)などの作品で知られる映画監督 真利子哲也の商業映画デビュー作。とはいったものの、ひたすら喧嘩に明け暮れる青年の姿を安易にドラマ性を持ち込むことなく「ただそのもの」として切り取ってみせる淡々としたタッチは、商業映画というよりかはインディーズ映画の趣である。
 菅田将暉、小松菜奈、池松壮亮、村上虹郎、北村匠海などなど、第一線で活躍する若手俳優たちが多く揃った作品だが、やはりその中でも主人公 芦原泰良を演じた柳楽優弥の存在感には突出したものがある。登場した瞬間に「あ、絶対に関わっちゃいけない奴だ」と思わせる強烈な異物感は筆舌に尽くし難い。もし柳楽優弥以外の役者が演じていたら、間違いなく大事故になっていただろう。そういう意味においても本作は、れっきとした柳楽優弥の「スター映画」である。柳楽優弥を起用した時点で、本作はすでに成功しているといっても過言ではないだろう。主人公の泰良は見知らぬ通行人に対して次から次へとランダムに喧嘩を仕掛けていくが、最後の最後までその真の動機はわからない。『ダーティハリー 』(71年)のスコルピオ(アンドリュー・ロビンソン)や『ダークナイト』(08年)のジョーカー(ヒース・レジャー)がそうであったように。それゆえに、はじめのうちはただの「危ない奴」にしか見えなかったはずの泰良が、次第に社会の枠組みから完全に外れた「純粋な暴力」の体現者のように見えてくるのが本作の面白さだ。どこにでもいそうで、しかしどこにもいない。本作は、そんな「純粋な暴力」の道程をじっくりと見つめるような作品である。
 よくできた映画だとは思うが、菅田将暉演じる北原裕也というキャラクターが作品のトーンに対してあまりにも軽すぎる点が実に惜しい。物語に普遍性を持たせるためにあえて深みのない「どこにでもいるようなキャラクター」として描いたのかもしれないが、芦原泰良というキャラクターにしっかりと厚みがあるだけに、彼の存在が映画の世界観を崩してしまっているように思える。制作陣の狙いもわからなくはないのだが・・・。
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