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ヒトラーの忘れもののICHIのレビュー・感想・評価

ヒトラーの忘れもの(2015年製作の映画)
5.0
今まで観てきたナチス映画の中で、一番ショックが大きかった。

額が割れるのではないかという位のプレッシャーと、観終わった後、倒れ込んで暫く動けないような疲労感がある。

心臓に悪く、強烈だ。

戦争がもたらした憎しみの連鎖のツケが、戦後を処理する人々を蝕んでいる様子がリアルだった。

ナチスドイツがしたことへの憎しみに満ちた一介のデンマーク軍曹が、ドイツ少年兵を率いて地雷を除去させる日々の中で、彼らに対する思いが変わってゆく様子を緻密に描いた。

生来人間の持つ、国を越えた命への慈愛と、それとは相反する非道な残虐性とを、一人の人間を通してリアルに描いているところは秀逸だった。

身近な命を奪われることで爆発する憎悪と、その憎悪を少年兵へ当てつけるしかなかったデンマーク軍曹の、正気に返った時の葛藤が痛いほど伝わってきた。

デンマーク軍曹の行動に、怖がるだけだった少年兵たちが徐々に心を開いてゆく様子。犬が死んだことで、元以上に残虐になったデンマーク軍曹に呆然とする様子。それでも、仲間が抜けようとした時にそれを阻止する団結力を発揮した少年兵らに、垣間見えた残虐性の片鱗。

慈愛と希望を共有しようとする人々を、戦争の代償である恐怖と飢えと憎悪が蝕んでゆくのに、抗っているのが彼らに見えた。

ひたすら地雷を除去していく様子は甚だ心臓に悪く、それを文句一つ言わずに(言ったら殺されるとわかっていたとしても)除去して、運が悪ければ死んでゆく様子は、深夜3時に物凄い声で絶叫してしまうほどショックが大きいものだった。


どうして埋めろと言った当の本人が除去しにこないのか、どうしてそんな重たい任務をたった一人の軍曹に任せきりだったのか、そういう理不尽さが作品を通して終始あった。

軍曹が人知れず少年兵の食料を調達してくる様子、地雷を受けた少年兵を見舞う様子、その道中、田舎の一本道を小さな車で向かう様子は温かみに溢れ、小さくても大きな勇姿であった。

少年兵たちに悟られないように人知れず苦悩するデンマーク軍曹の葛藤と、彼らへの責任感が雄々しかった。

隣のデンマーク民家の協力も得られず、自分も飯をろくに食えないようで、少年兵から離れた場所で少年兵らと同じ食事を掻き込んでいるカットは、さりげなくも強く印象に残った。

ドイツもデンマークも、勝った負けたに関係なく、戦後は食料や物資が不足していたこともよくわかった。

最後、一介のデンマーク軍曹が、上司の非道な(当時の彼らにとってはそれくらい当たり前だと感じるのも無理はないが)選択に憤慨し、自ら図って少年兵らをドイツへ帰還させたシーンは、途中殺されないか不安ながらも感動的だった。ほっとした。

少なくとも映画として描かれており、そういう感動的な事実があったのかは別にして、ドイツ側もデンマーク側も、戦争の代償に対して共に苦悩した様子を描いたことがよかった。

そうすることで誰も救われなくても、そうせざるを得なくする戦争の怖さと、その代償の余りの途方のなさを虚しいほど突きつけられた作品。

戦争をした後の始末までできるような人間は、そもそも戦争を始めないのだなと、つくづく痛感させられる作品。
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