むーしゅ

俺たち ポップスターのむーしゅのレビュー・感想・評価

俺たち ポップスター(2016年製作の映画)
3.4
 「サタデー・ナイト・ライブ」に出演していた人気コメディアングループ、ザ・ロンリー・アイランドの3人が監督・脚本・プロデュース・出演までやってしまったモキュメンタリー映画。同じくこの3人が製作を担当した「ブリグズビー・ベア」が日本でも今年(2018年)公開していますが、まぁせっかくなのでこちらも鑑賞。

 幼なじみ3人で結成した世界的に有名なヒップホップバンド「スタイル・ボーイズ」はセンターを務めたコナーのソロデビューにより解散に追い込まれ、オーエンは専属DJ、ローレンスは引退し農家の道を進むことになった。ファーストアルバムの大ヒットでさらに調子に乗るコナーだったが、続くセカンドアルバムが大不評で、スキャンダルも続いてしまう。コナーはスタイル・ボーイズの再結成も考え始めるのだが・・・という話。全体的にJustin Bieberのドキュメンタリー映画「ジャスティン・ビーバー ネヴァー・セイ・ネヴァー」で遊びすぎ。まぁオマージュということで受け止めておきますが、亀を飼っているところとか(Justinは蛇)、ドラムを叩く幼少期とか、原題が"Popstar: Never Stop Never Stopping"(Justinは"Justin Bieber: Never Say Never")なところとか、彼ららしいいじり方です。

 先ずこの映画の魅力は、かなり風刺が効いていることですね。2000年代からMTVを中心にセレブの日常を描いたリアリティ番組が流行しましたが、撮られる本人は人気者だと勘違いし、視聴者はセレブ達のバカさに笑うという独特の文化が生まれ、くだらないドキュメンタリーが量産されました。そしてそれをさらにバカにするのが本作で、以前にはゲイのファッション・レポーターを描いた「ブルーノ」など同系統映画もありましたが、あちらはタブーや法スレスレを攻めていたのに対して、こちらはより音楽業界の現実に寄り添って進みます。主人公コナーが引き起こす事件もどこかのセレブで聞いたことのあるような内容ばかりで、ゲラゲラ笑えるものの、冷静になればいくら音楽が売れなくたってSNSとお騒がせ事件で食べていかなくてもと思えてしまう、そんな現代の音楽界。あえて薄っぺらく作ることで、そんな背景の現実まで見えた瞬間になんだか急に怖くなります。また彼らの劇中曲が、歌詞は酷いけどかなりかっこいいんですよね。車でかけてたら「これ誰の?良くない?」とか言われそうな楽曲たち。それも含めてリアリティがあり、モキュメンタリーだと言われなければおバカなセレブドキュメンタリーのひとつだと勘違いしてしまうと思いますし、だからこそ後半ストーリーが意外と心に刺さってきます。

 また面白いのが本作のスタイル・ボーイズ3人の関係性が、主演を務めたザ・ロンリー・アイランド3人の関係そのままだということ。幼少期からの友人3人で結成したザ・ロンリー・アイランドですが、フロントマンでコメディ俳優としてキャリアが成功しつつあるAndy Sambergが主人公でソロデビューにより他のメンバーを見限ったコナー、監督業で着々とキャリアを積むAkiva Schafferがセカンドマンのローレンス、抱き合わせ的にちょいちょい映画に出ているJorma Tacconeがコナーの腰巾着的DJオーエンを演じており、まさに彼らの関係性そのまま。3人の関係性が上手くいっているからこそネタに出来るのかもしれませんがなかなか自虐的です。ただそういった自分達の境遇も笑いにしておくからこそ、弄られた音楽業界からしてもそこまで怒りにならないのかもしれませんし、この戦術は上手いですね。とにかくくだらないネタが沢山仕込んでいるおバカな映画に変わりありませんが、密かに仕込まれた毒針に気付くとまた違った世界が見える、というような意外と面白い作品でした。Andy Sambergが後半かっこよく見えてくるのも驚きです。

 さて本作はカメオ出演がとにかくすごいです。Justin Timberlakeは言うまでもないですが、Akon、Mariah Carey、50 Cent、Paul McCartney、Katy Perry、P!nk、Snoop Dogg、Usher、Pharrell Williamsなどなど、とりあえず有名人が出すぎです。ただこれだけの有名人が出演しても良いと思ったことが重要で、彼らは単なるバカ騒ぎに参加しておこうと思っただけではなく、本作の真の意味にも気づいており、根本的な音楽業界全体が現在進んでいる道に思うところがあったのだと思います。彼らに対する批判がここまで沢山入っていながらも、こんなに多くの賛同を得たことはすごいことですね。アメリカのコメディは時々恐ろしい力を持っていて侮れないと痛感しました。
むーしゅ

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