Inagaquilala

バーニング・オーシャンのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

バーニング・オーシャン(2016年製作の映画)
3.7
災害や惨事を描くディザスター・ムービーに間違いはないのだけれど、「ローン・サバイバー」のピーター・バーグ監督が描くこの作品は、どこか肌触りが違う。

2010年4月20日、アメリカ・ルイジアナ州のメキシコ湾沖で発生し、世界的にも大きな注目を集めた海底油田の爆発事故。「事実に基づく」この作品は、爆発を起こし、膨大な量の原油の流出を招いた石油掘削施設「ディープウォーター・ホライゾン」に働く人々の日常生活の描写から始まる。

電気技師のマイク・ウィリアムズ(マーク・ウォルバーグ)は、この日から始まる3週間の「ディープウォーター・ホライゾン」での泊まり込み勤務を前に、妻との別れを惜しんでいた。ベッドから抜け出そうとする夫を引き止める妻。それを「弟が欲しいので、起こしに来なかった」とマセた発言で笑わせる娘。しかし朝食の席、コーラに突き刺したストローから逆流する液体が、不吉な前兆を予感させる。

マイクと同じ施設で働く女性技師のアンドレア・フレイタス(ジーナ・ロドリゲス)は、かなり年季もののマイカーで、「ディープウォーター・ホライゾン」行きのヘリポートまで出かけようとするが、エンジンがウンともスンともいわない。やむなくオートバイの後部座席に同乗しての出勤となる。

マイクの上司で施設の安全を守る責任者でもあるジミー・ハレル(カート・ラッセル)は、この石油掘削事業の親会社でもあるBP(ブリティッシュ・ペトロリアム)社からやってきた幹部社員のネクタイに注文をつける。それは最悪の事態を知らせる警告灯の色であるマゼンタ(赤)だったからだ。

この間に、マイクが見た悪夢や海底での不穏な動きの描写が挟まれていく。スリリングな展開への前兆として。

「ディープウォーター・ホライゾン」はメキシコ湾80キロの沖合に浮かぶ巨大な施設だ。そこで働く作業員は厳重なセキュリティ・チェックの後に、ヘリコプターに乗り込み、3週間の勤務にやってくる。掘削作業はすでに計画からは何日も遅れており、BP社の責任者と下請け会社の作業員との間に軋轢が生まれている。

施設での掘削作業や安全確認作業については、あえて専門用語を使用して、リアリティを保っている。なので、ややわかりづらい(というか相当に細かいディテールにまで言及しているので面食らう)が、これも監督の事実にこだわる描写に由来するものだと言える。

掘削を急ぐ親会社BP社と安全確認を優先する現場との確執はかなり明確にされていく。BP社がイギリスの会社だけに、かなり厳しい断罪も入っているような気がする。そしてある意味「人災」でもあると言われた、この未曾有の石油掘削施設の大事故の原因も解き明かしていく。このあたりになかなかジャーナリスティックな視点も感じられる。

そして爆発は、物語のちょうど半分が経過した時点から起こる。ここからはもうディザスター・ムービーに加速がかかる。現物の80パーセントの縮尺で実際に建造した「ディープウォーター・ホライゾン」での爆発&炎上シーンはまさにニュース・フイルムを見るような迫力。その中で、最大限のパフォーマンスを発揮して、人命救助にあたる主人公マイクの活躍が見どころになる。

ただ、前半の登場人物たちのバックストーリー描写やBP社と現場の確執劇が効いていて、単なるアトラクション的ディザスター・ムービーになることからは完璧に逃れている。次回作も2013年のボストン・マラソン爆撃事件を扱った「パトリオット・デイ」の公開がすぐ控えているピーター・バーグ監督、間違いなくディザスター・ムービーに新風を吹き込んでいることは確かだ。
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