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ATARI GAME OVER アタリ ゲームオーバーのnobuoのレビュー・感想・評価

4.2
久々に鑑賞。

現在とある話題作が荒れているようだ。実際に鑑賞して出来に憤っている方も多いだろう。しかし実際はそれだけではなさそうで、SNSで露悪的な大喜利エアレビューをしている方もいるらしい。
製作陣やPVの雰囲気からある程度内容の予測はできるとしても、自分の目で観ない限りクソ映画と断言できるわけがない。そうでない感想は単なる世迷い言だ。
こんな今だからこそ、俺は「エアレビュー問題」に深く切り込んだ本作を広く薦めたい。


「伝説のクソゲー」称されるE.T.のゲームを題材とした本作は、レトロゲームファンでない俺が観ても非常にわかりやすく興味深い内容になっている。「インディ・ジョーンズ」ばりの考古学調査で埋葬地を割り出す過程などは素直にワクワクさせられる。数々のスピルバーグ作品パロディや「ゲームオブスローンズ 」原作小説著者ジョージ・R・R・マーティン登場など、散りばめられた小ネタも面白い。


また、資料的価値も非常に高い。まず本作の監督ザック・ペンは、後に主要証言者の一人アーネスト・クラインの著作「レディプレイヤー1」(Atari 2600が物語上重要な役割をもって登場する)の劇場版脚本を務めることになる。その際メガホンを取ったのは「E.T.」の監督であるスティーブン・スピルバーグだ。実に数奇な縁ではないか!
更にスピルバーグ自身が、テストプレイをした上でゲームに太鼓判を押した証言映像を見られたのは興味深かった。本作によると、スピルバーグには発売を止める決定権があった。しかし彼はゴーサインを出している。原作者の意向を無視して造られたタイプの粗製濫造型キャラゲーは今日でも存在するが、「E.T.」はそうではなかったわけだ。


そして一番心をえぐられるのは、終盤で関係者達から語られる切実なメッセージだ。
「プレイ経験が無いのにけなす人が多い。ウワサを鵜呑みにしているだけ」
「悪く言うことがカッコイイと見做されている」
「人間はウワサを大きくしがち」
「E.T.より酷いゲームは山程あるのに、E.T.だけこき下ろすのは許せない」


これはゲーム版「E.T.」或いはゲームそのものに限った問題でなく、映画や演劇などの芸術作品全てに共通する普遍性を持った問題提起ではないだろうか。
褒めるにしろ貶すにしろ、何事もまずは経験してからだ。今回の騒動を、この映画は強く批判してくれている気がする。

(別サイトに書いたレビューをもとに改稿しました)
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