磔刑

レディ・プレイヤー1の磔刑のレビュー・感想・評価

レディ・プレイヤー1(2018年製作の映画)
4.0
「オタク賛歌」

版権キャラクターを大量に出すゲーム世界が舞台のSF作品と聞いた時は「まーたハリウッド様が観客の頬を札束でぶん殴る糞映画作るのかー」とか思ったし、テレビゲームは年に一本程度しかプレイしない身としては背景にゲームやアニメの版権キャラクターがカメオ出演したぐらいで熱を上げる訳ないのだから低めの評価をするだろうと思っていた。がキューブリック監督作『シャイニング』の再現度、マクガフィンを“バラのつぼみ”なんて小粋な言い回しには映画ファンとして強い感動を覚えるし、最終決戦でのメカゴジラ対ガンダムの戦いはBGMとも相まって最高に熱くなり、そこからアイアンジャイアントの掌から現れるアルテミス(オリヴィア・クック)は思わず涙腺が緩む☆5.0級の演出だ。
と見る前はオタクに媚びたブロックバスタームービーだろと斜に構えていたがいざ鑑賞すると製作者の術中にまんまとはまった訳だが、作り方が悪ければ全ての版権要素が只のファンサービスに成り下がり得たのだが、そこは天下無双のスティーブン・スピルバーグ監督がしっかり一つのエンターテイメント作品として完成させている。

ただ荒唐無稽のエンタメ作品であるが故に粗や矛盾も多く存在する。しかし本作は悪い部分を積極的に削るよりは良い部をより良く魅せるのに力を注いだ様に感じられ、その選択が作品により良い効果を働いている様に感じられる。しかしあえていくつか欠点を挙げるなら、世界的な仮想空間を舞台にしているのだがそれを巡って争っているのが主人公一団しか描写それないので出来レース感は否めない。そのくせ最終決戦には呼びかけただけで無関係な人達が打算的な考えなくて集まり、かなり御都合主義に感じられる。序盤のオアシスの世界観をモノローグで説明する演出も本当に只説明しているだけで壮大な世界観を舞台にした物語の出だしにしては単調かつ新鮮味が薄くドラマチックでない上にウェイド(タイ・シェリダン)が狂言回しの様な印象を受け、この物語の主人公としての説得力を奪う掴みとしては赤点の演出だ。
背景に有名キャラクターを惜しみなく使うのが本作の売りなのだが、只の背景に完成されたポップアイコンが映る事で本作主役であるオリジナルアバターのデザインの弱さを逆に露呈する結果となってしまっている。
あと一番違和感を覚えたのは最初のレースの攻略方法だ。現代においてゲームは只の娯楽の域を出てプレイする人間のプロ化が進んでいる現状を踏まえればゲーム内のルールの公平性は何よりも重要な要素なのは言うまでもない。にも関わらずレースの正規の攻略方法がチート(裏技)である事は大きく矛盾しているし、リアルより仮想現実の重要性が増した世界なら尚更攻略法は実力で勝ち取るものでなければならなかったのではないかと思えて仕方がない。加えて3つのゲームの攻略法を製作者の過去から紐解く演出も穿った見方をすれば製作者の信者しか攻略出来ない構造なので新しい世代にオアシスの行方を託すのではなく、創始者が死んだ後にも自分のイエスマンに実権を握らせる保守的な考え方に見えてしまう。
個人的には作品のSF感には特別魅力的に感じられなかった。仮想現実やVR、ドローン、格差社会といった物語を象徴する要素の多くは現実世界で実用化されたもので、現実的質感が強く近未来の象徴としては弱く感じられる。それに上記の技術や視覚的効果は昔のSF映画で散々擦り倒されてきたので新鮮味も薄い。その為煌びやかな仮想空間に対して現実世界のSF感が薄い為、どうしても現実パートは面白味に欠けてしまっている。

とは言え題材的にはお祭り映画に部類される作品なので友人、家族、恋人と観に行って自分が拾えた版権ネタを羅列し合うだけでも十分楽しめ、娯楽として成立している辺りは新機軸の映画と言えるだろう。今作では往年のオタク文化におけるポップアイコンが多く使用されている関係上日本発のキャラクターは少なくない。本来ならポップカルチャー大国の日本で作って然るべき題材ではあるがキャラクターを貸し出すに留まってしまっている現状を見ると少なからず複雑な気持ちにはさせられる。
ただ心の奥底から「サンキュー!スピルバーグ!!」と思えるありとあらゆるポップカルチャーに敬意が払われた劇場で観るべきお祭り映画なのは間違いない。
磔刑

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