Masato

ベイビー・ドライバーのMasatoのレビュー・感想・評価

ベイビー・ドライバー(2017年製作の映画)
5.0
エドガーライト監督が贈る、ミュージカルアクション。

鑑賞後に

「次いつ見ようかな」

こう思わざるを得ない。最高の映画だった。
殆どのシーンのBGMがアーティストソング。歌に合わせて映画が進んでいき、アクションが繰り広げられる。
カーアクションもガンアクションも、殆どが音楽に合わさっている。分かりやすく言えば、「スーサイドスクワッド」の予告編のボヘミアンラプソディーのような感じだ。音楽の波にのまれ、気づいた時には終わっている。
コメディとしても見ることもでき、一瞬にして胸が締め付けられる展開や、スリルある展開にまで急展開する。音楽が様々な場面で合致しているため、音楽が潤滑油のようになっている。

音楽に引けを取らず、アクションも高水準で、カーアクションは素晴らしい。ガンアクションも「ホットファズ」の恩恵か、骨太なアクションだった。アンセルエルゴートのパルクールも見ものだ。

音楽を聴くとたちまちドライブテクニックが覚醒する通称ベイビーの物語。
子どもの頃の交通事故で耳鳴りがする彼は、目と耳を隠して現実世界から逃避する。
トラウマを持つ彼は、愛によって解放されていく。
かつて愛してくれた者を"取り戻す"ように。
そう、これは愛の物語である。

アンセルエルゴート、ジョンハム、ジェイミーフォックス、ジョンバーンサル、ケヴィンスペイシー。特に、ジェイミーフォックスの演技が最高。


追記 2回目 2017.9.5 ネタバレ

町山さんの解説を聞いた後に鑑賞すると、かなり緻密に出来上がった作品だとわかる。今回の町山智浩の映画無駄話、最高の解説をしていますので是非購入してください。得しか有りません。

町山さんの言うように、この映画は病理的な側面も併せ持ち、音楽を常に聴いて外界からのあらゆる情報を遮断している=自閉、アスペルガー。
精神年齢が事故当時が止まっていることが察せられる箇所などが多数見受けられる。1番に分かりやすいのは、レストランに行った時に必ずお子様メニューを見ていること。
10年前でもドライブテクニックは健在だったというセリフから、おそらく精神年齢が止まっている可能性。そして、ドクの甥との対比関係を描写することで、ベイビーの精神年齢が止まっていることを強調的にしている。

所々に家のテレビで映ったセリフを放っていたりするところも緻密さが身に染みてくる。
モンスターズインク「チームだろ?」
Bug hall 「You are so beautiful」
ジョンクラシンスキー出演のドラマ?「すぐにデカくなる」
ファイトクラブ「得したか?」

そして、1番なのは、親子愛的な表現が多い。
バッツに関しては、悪い友達のような印象にも思えるが、一見悪い父親のようにも思える。4人でレストランに行く際に、ベイビーが嫌だと言うのに行かせるところなどは暴力的な父親の印象が私には彷彿とさせた。
母親的存在なのはデボラ。最後のシーンで「不遇な状況から救いたかった」というある意味母性的なセリフから察するに、デボラからはベイビーはまるで子どものように見えていたことがわかる。
ベイビーとデボラの関係はジュブナイルに見えるが、その根底には過去に失った母親に重ね合わせるように表現されている。そして、バッツも暴力的な父親に重ね合わせるように表現されている。

耳鳴りのするシーンは、ベイビーの中に嫌な感情が存在する時であることがわかる。表面的には分かりにくいが、耳鳴りのシーンがあることで、主人公の感情が読み取れるということも素晴らしい表現。

GotGのように、音楽が登場人物の心情を物語っている。
EASYは別れのソングであり、痛みに耐えられないから出て行く歌詞。しかし、出て行くこと後悔はしていなく、清々しい気持ちであるという歌詞。
母親の愛に束縛されたベイビーは子どもの心から離れなかった。しかし、デボラの存在により、母親の愛の束縛から解放されたのだ。それを後悔してはいない、感謝しているだろう。
(母親からの視点では暴力的な夫からの解放を望む歌に聞こえる)

ピザ屋の名前がGoodFellasなのも、グッドフェローズとマーティンスコセッシに尊敬の意を込めているからだろう。

こうしたエドガーライトは細部に渡り伏線を張り、細かく回収する。最初のうちは気付きにくいが、2回目に鑑賞するとその緻密さに感嘆とさせられるばかりだ。

追記
Baby Driver OST Sky Ferreira - Easy (cover)
https://youtu.be/2DScjas2Nv8
このMVはベイビーの母親の視点からのEasyである。虐待を重ねる夫から逃げたい心情をEasyの歌詞に乗せて歌っている。非常に良くできたMVだ。
ベイビー視点では亡き母親に囚われている呪縛を心の奥では解きたいと思っている心情がEasyに込められている。
視点を変えることによって、意味合いが変わってくる曲。メインテーマとして設定されており、非常に重要な意味合いを持っている。この曲を聴くだけでこの映画の世界がパッと現れ自然と涙袋を刺激される。エドガーライトは天才としか言いようがない。

3回目 2019.05.05 みなとみらい 野外上映
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