Kevin

ベイビー・ドライバーのKevinのレビュー・感想・評価

ベイビー・ドライバー(2017年製作の映画)
4.9
イヤフォンとサングラスを身につけ、肌身離さずに持っているiPodで音楽を聴く青年。
一見どこにでも居そうな青年だが、そんな彼は“ベイビー”(アンセル・エルゴート)という名で強盗団の逃走を手助けする天才ドライバー。
だがこれは彼が選んだ仕事ではない。
彼は過去に大物犯罪者“ドク”(ケビン・スペイシー)を大損させてしまい、その借りを返す為に強盗計画に加わっているのだ。
漸くその借りを返し終えたベイビーは時を同じくして、“デボラ”(リリー・ジェームズ)というウェイトレスと知り合い、互いに惹かれ合っていく。
しかし息をつけたのも束の間、借りを返し終えた筈のドクが新たな仕事を持ちかけてきたのだ。
デボラの存在も知られてしまった彼は、彼女を守る為、そしてこの仕事から足を洗う為、最後のドライブへと己を奮い立たせる...。

久しくレビューを書いてなかったのですが、本作はずっと楽しみにしていたエドガー・ライト監督のハリウッド進出作品ということと、期待に違わぬ作品だった為書きたくなってしまいました。

最高に痺れるオープニングで幕を開ける本作は全編を通してフルスロットル。

今までこんなにも音楽とアクションが完璧にシンクロした作品があっただろうか。
「音楽を流しながらのアクションシーン」というのは多くの他作品にも見受けられるが、本作はそういった融合の域ではない。

視覚上に映るモノだけでなく全てのモノが音楽の一部なのである。
銃声,環境音,アクセル・ブレーキ音,更にはワイパーまでもが一つの音楽として機能しているのだ。
もっと言ってしまえばこの作品自体が一つのシークエンスとして、音楽として存在しているのだ。
普通なら音楽と映画と区別されるものが本作だとその境界線が何処にも見当たらない。

その上もう一つの目玉であるカー・アクションも圧巻の一言。
カー・アクション自体アクション映画において極めて重要な役割を果たす訳だが、この点も他作品より明らかに抜きん出ている。

これ程ハイレベルなアクションシーンがセンス抜群な音楽と組み合わさり、半端なくクールなミュージカルへと昇華されてはぐうの音も出ない。

それを成し遂げたエドガー・ライト監督の果断には本当に驚かされるばかりである。
勿論、彼の持つユーモアは本作でも健在。
鑑賞後、「よくやってくれた!」という率直な気持ちが第一にやって来て心の中で拍手してしまった程。

そして主演のアンセル・エルゴートを初めとする豪華キャストも本作の見所と言える。
皆、劇中でとことん生き生きとしており、各々が作品の歯車として見事に噛み合っている。

特にアンセルに関してはまだ比較的浅いキャリアなのでこんなことを言うのは失礼承知で、彼の今まで、更には今後のキャリアの中でも本作のベイビー役に敵う役はないんではないかと思ってしまうくらいの当たり役だった。
彼のミュージシャンとしての才能も披露する本作は彼の為に作られたようなもの。
と言っても彼なら今後の更なる活躍は必須だろうが。

それに加えドラマでさえもその真価は計れない。
この“ベイビー”という男について劇中から感じ取れる彼と車との関係や彼の過去,苦悩は多くあれど、表面に浮き出てきたのはほんの一部だと思う。
彼が外界を遮断することとなった出来事の顛末をもっと深く知ってみたい。
それだけでも十分見応えのあるモノに成り得る筈だ。

本作に対して褒めてばかりだが、ロマンス部分もこれまたよく出来ている。
ベイビーとデボラの初々しい関係が可愛らしい。
デボラ役はリリー・ジェームズにしか務まらないのではないかと思えるくらい役柄と彼女の独特な雰囲気がマッチしていた。
ただ可憐なだけでなく、彼女自身から溢れてくる聡慧なオーラ、そしてやっぱりとびきり可愛いスマイル。
彼女の笑顔に胸を打たれない男はいないだろう。

クライマックスからラストにかけては切なく、爽やかで微笑ましい素敵な着地を魅せる。
本当に非の打ちどころのない作品だった。

目と耳、どちらも最大限に楽しませてくれる極上エンターテインメントを是非劇場で。

サントラ購入待ったなし。
Kevin

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