湯呑

ベイビー・ドライバーの湯呑のレビュー・感想・評価

ベイビー・ドライバー(2017年製作の映画)
4.6
天才的なドライビングテクニックを買われ、銀行強盗の逃がし屋を請け負っている主人公BABYは、子供の頃の交通事故が原因で常に耳鳴りに悩まされている。その耳鳴りを止める為に、彼はイヤホンで音楽を聴き続けなければならないのだ。この特異な設定には2つの意味があるだろう。1つは、カーチェイスもガンファイトもラブシーンも、ロックやヒップホップ、ソウルなど様々な音楽と同期しながら展開する本作において、常に「音楽が鳴りっぱなし」である事の理由付けである。もう1つ、交通事故で両親を失って以来、彼にとって世界はノイズに満ちた苦難そのものであり、よもやするとバラバラに千切れそうになる精神と身体をひとつにまとめ上げ、導いてくれるのが音楽である、という主人公の欠落を象徴する役割も担わされている。つまり、本作の音楽映画としての側面と、青春映画としての側面、その両方を支えているのが、主人公BABYの持つi-podとその中に蓄えられた楽曲なのだ。つまり、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』に登場するカセットテープと同じ役割である。親子の関係性が人物を入れ替えながら何度も変奏される構造も非常によく似ている。そして、先行作品にあからさまなオマージュを捧げながら、それを現代風なエンターテイメントに再構築する見事な腕前も、だ。
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