エクストリームマン

ベイビー・ドライバーのエクストリームマンのレビュー・感想・評価

ベイビー・ドライバー(2017年製作の映画)
4.2
Was he slow?

エドガー・ライトの新作。サイモン・ペッグもニック・フロストも出ていないなんてなんだか寂しいけど(『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』もそうだったか)、サイモン・ペッグはベンジーだったりスコッティだったりと忙しいので(ニック・フロストは知らん)それもむべなるかな。

無垢にiPodで自閉することで辛うじて生き延びてきた主人公:ベイビー(アンセル・エルゴート)は、贖罪=ドク(ケヴィン・スペイシー)への借金返済を終えて、晴れて「キレイな金稼ぎ」と、無前提の愛をただ与えてくれる聖女で聖母なダイナーの彼女=デボラ(リリー・ジェームズ)に出会うも、ラッキーチャームな逃し屋が足抜けできる筈もなく。まぁ、冒頭で「お前の罪を悔い改めろ」と看板持ったおっさんが言っていた罪はソレジャナイわけで、迫りくる災難=バッツ(ジェイミー・フォックス)は、iPodでどの曲を選んでかけても消えてはくれない。

ドク、バッツ、バディ(ジョン・ハム)の3人が、それぞれベイビーにとっての父、兄、叔父のような役割を与えられているところが面白い。ドクは冷厳な父、バッツは生まれながらの悪党でストリートワイズな兄貴、バディは面倒見がよくて優しいもののキレると手がつけられない叔父貴って感じか。まぁ、誰に頼っても袋小路というところが、ベイビーにとっての不幸なんだろうけど。3人それぞれが違った仕方で破滅していくのもまた面白い。ドクは過去の郷愁に負けて、バッツはベイビーをコントロールできるという自信過剰から、バディはダーリンの死から必然の闇落ち、という。

アンセル・エルゴートは、やっぱ顔と雰囲気でベイビー役に選ばれたのかな。エドガー・ライトが想定してた主人公の身長=自分と同じ背の高さ=170cmなのに、アンセル・エルゴートは191cm。まぁ、身長高くても、それに見合った?威圧感がないからよいのだろうけど。画面でも後ろに配置したり座らせたりして、寧ろ低く見せるように工夫してた。いかにもヤングアダルト映画に出そうな容姿だなと思ってたら、『ダイバージェント』に出てたらしい。

今回間違いなく一番美味しい役だったのは、ジェイミー・フォックスだと思う。ベイビーの見ない/聞かない/感じない世界に容赦なく切り込んでくる鋭さと、異物感が素晴らしい。自称サイコパスの割に、誰よりも洞察に優れ、的確に他者の弱点を見抜く眼力の持ち主。同時に破滅的でもある。言動や所作から、その嗅覚で生き残ってきたと感じさせてくれるところがとてもよい。ダイナーの場面が特に良い。

陽気でありつつ陰鬱さを通底させるエドガー・ライトの手腕が今回も遺憾なく発揮されていた。そしてやっぱり、かなりモラリッシュな、それもキリスト教的モラルに満ちた映画だったなと。