こうん

アイリッシュマンのこうんのレビュー・感想・評価

アイリッシュマン(2019年製作の映画)
4.5
たっぷりジワジワ、3時間半のスコセッ師映画。いやー堪能したなぁ!疲れたけど、濃密なシネマ体験でした。

観る前は最近のスコセッ師の「マーベル映画は映画じゃない」発言とかNetflix問題(公にも私的にも)とか、色々考えてたんだけど、吹っ飛びましたね!

身もふたもない説明すると、コクのある顔のおじさんたちが延々と内輪揉めしているだけなんだけど、その人間たちの滑稽味と組織やアクの強いカリスマたちとの軋轢の哀しみが、軽みと重みと両輪の手触りで描かれまくっていて、ドラマとして秀逸でしたね〜。
そしてジミー・ホッファの終焉へと続く、クライマックスともいえる一連のシークエンスの映画的な呼吸といったら!
鼻息荒くして「たまらん!」と絶叫したくなりました。

全米トラック協会というグレーゾーンの組織なだけに、マフィアものとはまた一味違ったフランクな雰囲気がある登場人物たちの関係性で、より職場感や友達感があって(マフィアのような鉄の掟はなさそう)、より人間味のあるドラマが展開されており、それでも邪魔な奴生意気な奴は殺っちゃうわけで、人物紹介のテロップのセンスの軽妙さも含め、なんだか「仁義なき戦い」のようでもありましたね。基本的には人間喜劇ですよ。
アル・パチーノは金子信雄です。
あと、デ・ニーロの相克だけみれば、外様のヤクザである鶴田浩二が荒ぶれる「総長賭博」みたいでした。

それにしてもデ・ニーロがよかった。
アカデミー賞対象?だったらノミニーくらいされるんじゃないか。あの困り笑顔がめちゃハマってたねこの映画に。
ジョー・ペシもよかった。あの剣呑な眼差しはさすがです。
ラストあたりのふたりの老いさらばえ方は凄まじいものがあるし、ラストカットの数十センチの切なさよ…!
ちょっと泣きました。よくここまで観せてくれたし、御年76のスコセッ師の実感が感じられましたよ。
生きること老いることの寂寥感に充ち充ちた映画でした。
それがシネマ/ムービー/ピクチャー/フィルム/活動写真のいずれかだとしても、僕にはしっかり〝映画〟でしたよ。

なんにしても映画館で観られてよかった。
これは覚悟して209分、映画館で一気見するのが良いと思う。

しかしこの企画をスコセッシが通常の劇場公開の映画として作れなかったことを考えると「映画じゃない」発言の真意にも得心がいくけど、このランニングタイムのじっくり具合は逆に配信前提だから成立させられたのかも。
劇場用だったら2時間半に切られてるよね。

スコセッシがNetflixで映画を作る、という事態はやはり事件ではある。
「面白けりゃなんでもいいです」というのは観客の権利だけど、映画ファンとしては対岸の火事としてはいけない気もする。

でもこの地味なギャング映画にはめちゃ金かかってるんだよね。若返りCGIで。若くしたり瞳の色を変えたり。
そこの延長にはまた、死んだ俳優をCGIで作り上げ演技させることができる、という創作上の倫理も孕んでいるから「アイリッシュマン」はなかなかに映画の外側で考えさせられます。
(ジェームス・ディーンのCGI蘇り映画には大反対です俺)

我が家のNetflix導入はまだまだ先だけど(夫婦の会話が途絶えるから)、Netflixはサブスク映画館とかお考えになられてはいかがでしょうか?(切実)
こうん

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