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アイリッシュマンのKKMXのレビュー・感想・評価

アイリッシュマン(2019年製作の映画)
4.0
長い!冗長!しかし、後半はかなり引き込まれてしまった…とはいえ長すぎます。面白かったけどね!

フランク・シーランという運命に翻弄された哀しい男の物語がたいへん重厚かつ丁寧に語られ、デニーロ&パチーノ&ペシの競演には贅沢感あふれますが、長い。格調高い名作ではありますが、長すぎるので超高評価は絶対にしたくないガーエーでした。
ネトフリで3日に分けて観ても長かった。劇場で鑑賞したら⭐️1.0間違いなし。長ぇ〜!

スコセッシは「配信により映画の鑑賞方法が変わった」と言ってます。まぁそうかもしれないが、俺は長尺無理だね!レコードからCDになってからアルバムの曲数がやたら増えたけど、個人的には捨て曲が多くなっただけにしか感じなかった。昔のストーンズのアルバムとかさ、8曲くらいだけど名盤だよ!20曲も入れてどうすんの?アートって引き算が大事だと思います。
長い話を作るならばドラマでいいでしょ。映画は基本1発で観るものだし、3時間半も休憩なしはどうかと思う。しかし、レコード→CDで曲数ガン上がりの歴史を踏まえると、今後も配信映画は長尺増えるでしょうね…あ〜ヤダヤダ。


前半はとにかくタルかった。登場人物多すぎだし、テンポも悪い。主要人物ジミー・ホッファが出てくるのに50分くらいかけてる。この時点では「ボロクソ貶して1点つけてやるぜ!」とイライラしながら観てましたが、折り返し地点くらいからグッと面白くなりました。

この辺から登場人物が絞られます。なのでストーリーが追えるようになったのです。主人公シーラン、権利を失った組合のボス・ホッファ、ホッファのライバル・トニー、ホッファやトニーのバックにいるマフィア・ラッセルの4人(+シーランの娘ペギー)。
権力者ホッファが逮捕により凋落し、ライバルのトニーが台頭。しかしホッファはその現実を受け入れられず傲慢に振る舞う。ホッファを支援していたマフィア・ラッセルはホッファに手を焼き始めます。ラッセルはなんとかホッファをおとなしくさせたい。そのため、ラッセルの紹介でホッファのボディガードになり、ホッファの侠気に惚れ込んだ主人公シーランは、ラッセルとホッファの間に挟まれ苦悩します…
物語がシンプルになるとちゃんとキャラクターの心情が理解できるし、終盤に描かれる老シーランの虚しさも説得力を持って伝わりました。


主人公シーランはトラックの運ちゃんですが、マフィアのラッセルと知り合い、殺しを請け負うようになります。シーランは第二次大戦に従軍し、捕虜を処刑とかしていたため、殺しへの抵抗もなかったのかもしれません。どっか麻痺していたのかも。一見すると落ち着いた男なのですが、娘ペギーとトラブったスーパーの店長を必要以上にボコボコにするなど、殺し屋やるだけあり確実に壊れた面を持ってました。
娘ペギーとシーランの関係は、本作のテーマともいうべきもの。シーランはペギーに愛情を示すもペギーは一貫して拒否します。ペギーの拒絶は、暴力の世界を生きるギャングの末路は孤独と虚無でしかないという、スコセッシが『グッドフェローズ』から一貫して描いている主張だと感じています。

『グッドフェローズ』では主人公ヘンリーがカスチンピラだったため、哀れな末路も「ブタども悲惨だなプゲラ」くらいにしか思いませんでしたが、本作ではシーランが葛藤を抱える複雑な人物だったため、彼の孤独と虚無の末路は胸に迫りました。なかなかの大人物だったが故に、ラッセルと知り合ってなければ…二次大戦で捕虜を殺してなければ…ペギーの射るような瞳の意味に気づいていれば…終盤はそんな思いが飛来しました。
自業自得とはいえ、運命に翻弄された悲しきアウトローの物語であり、寂しく感じました。時はあっという間に過ぎ去り、振り返ると無意味な人生を思い知らされる。その意味では、『グッドフェローズ』の完結編とも言えそうな作品でした。


本作に説得力を持たせているのは、シーランを演じたデニーロの顏演技だと思います。あの悲しげな瞳で、彼の葛藤や遣る瀬無さを見事に表現しているように感じました。デジタル修正で若い頃も演じていて、正直それは無理ありましたが、本作のキモは中年期以降なのでトータル的には気にならず。やっぱりデニーロは最高でした!
ペシは穏やかなキャラを演じてましたがハマってました。歳取ると穏やかなのもイケるんだなぁと。彼が若かったら絶対『グッドフェローズ』のイカれ野郎・トミーを求めてしまったでしょうね。
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