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ノクターナル・アニマルズのtanayukiのレビュー・感想・評価

ノクターナル・アニマルズ(2016年製作の映画)
4.3
いやあ、これはすごい。自分がこんな復讐されたら、絶望して死んじゃうかも。かつて自分の才能を信じてくれた人にお前には才能がない(人を見る目がない、人の才能を見極めるのが仕事のアートギャラリーのオーナーなのに)とこんなに真っ直ぐ言われて無事でいられるほど強くはないよ、少なくとも自分は。

冒頭のデブ専のダンスを見せられてトム・フォードすげえと思ってしまった人はたぶん完全に術中にハマってて、スーザンはおそらくあれが自分の魂の発露だとは思ってない。誰もやってないからやってる理知的なアート表現の一種で、やってる本人があの価値を信じてないという非常にセンシティブな問題をはらんでる。あれ、太ってる人が自らの表現の手段として採用するのとは天と地ほどの違いがあって、スーザンにとってはきっと計算ずくでしかない(本人もそうほのめかしてるし)。

多様性やLGBTQの時流に乗ったのとアート界に顔が効く夫の存在によって自分の想像以上に評価され、チヤホヤされて勘違いしてしまった自分を内心強く自覚していたスーザンにとっていちばん怖いのは、それを真正面から指摘する存在で、でも、どこかでそれを指摘してくれる人が現れるのを待ってた自分もいる。こんな幻はいつまでも続かないと本人はとっくに気づいてて、エドワードが登場するのを心の奥底では待ってたと言えるかもしれない。

だが、実際に現れてみるとこんなにキツいものはない。エドワード役のジェイク・ジレンホールが嫌いになってしまうくらい、キツい。それだけハマり役とも言えるんだけど。そこまで回り回って、トム・フォードすげえ、ってなった人とは友だちになれそう。トム・フォードすげえ。

ノクターナルアニマルズはエドワードの小説のタイトルで、直訳すると「夜行性動物」。劇中では「夜の獣たち」と訳されてた。そして、この言葉は不眠症のスーザンその人も指すダブルミーニング。人の才能に寄生してるくせに、芽が出ないと見るや簡単に使い捨てる獣のような女。怖い怖い。

△2021/09/25 Apple TV登録。スコア4.3
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