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ノクターナル・アニマルズのneroのレビュー・感想・評価

ノクターナル・アニマルズ(2016年製作の映画)
4.0
さすがにジェイク映画にはずれ無し。
20年前に別れた夫婦スーザンとエドワードの愛と憎悪、などと簡単に言い切ることを許さないクセモノ映画。

二人が学生時代に恋に落ち結婚し離婚するまでの過去と、不意に送られてきた彼の小説「Nocturnal Animals」のゲラを読む現在のスーザン、そしてそこに描かれるひとつのドラマ、この3つの場面が輻輳しながら描かれる。
小説そして劇中劇として描かれるのは、家族旅行の途上、不条理な暴力に翻弄される夫トニーの物語。娘の死、妻の死、そして復讐と夫の死。それはあり得たかもしれないリアリティをもってスーザンに迫る。
挿入される、夫の不倫、娘との会話、母との確執、etc、すべての時間軸の描写が等価なため、実際に起きたことなのかフィクションなのか、境界で翻弄される感じが続く。

トム・フォード監督らしく映像は非常に静かで美しい。その中で展開される情景には、直接的な描写は少ないのに、全編ホラー映画のような不穏さが充満し息苦しくなるほど。少々度肝を抜かれるオープニングから、画面には死の匂いが漂い続ける。

劇中”今”のエドワードは登場しない。フィクション部分で登場する”トニー”のみだ。そのことが”不在の”エドワードと”今”のスーザンとの関係性の位相のズレとなって、居心地の悪さをより強く感じさせる。
最後に二人揃うことがないのも当然と思う。少なくとも意趣返しなどではないだろう。ネタバレになってしまうが、このラストはとっても大人のエンディング。うーん胸が苦しい。
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