ハッピーアイスクリーム

ノクターナル・アニマルズのハッピーアイスクリームのレビュー・感想・評価

ノクターナル・アニマルズ(2016年製作の映画)
4.8
裕福な暮らしをしながらも、心は満たされない生活を送るスーザンの元に、20年前に離婚した元夫で小説家のエドワードからスーザンのために描いたという小説が送られ、その内容に翻弄されるドラマ・スリラー。

悔やんでも一度捨てたら二度と戻らない。

ファッションデザイナーでもあるトム・フォードがオースティン・ライトの小説『ミステリ原稿』を原作に監督・脚本を手掛けた作品。
ヴェネチア国際映画祭では審査員大賞を受賞した。

平成最後にどえらいもん観てしまった。
オープニングのダンスからかなり驚いたけど、今思えば、それはこれから始まる衝撃的な物語を暗示していたのかもしれない。

物語は心が満たされない女スーザンの視点で描かれていて、スーザンの現在、元夫エドワードと過ごした過去、そして、エドワードから送られた小説の中の物語の3つの構成が同時に進行して展開されていきます。
まず、この小説と同時に進行していくというのが凄い。
また、この小説がただの小説ではなく、スーザンとエドワードのもう一つの物語のように描かれていて、エドワードの“喪失”の物語となっているのが素晴らしかった。
小説の物語だけでも一本の作品として十分面白い。
赤いソファーや車など、現実の過去とシンクロして描かれていて、すごく綿密に計算して作られた映画だなと思います。

3つの複雑な物語で構成されているのに、観易くて分かりにくさは感じなかった。
監督がファッションデザイナーでもあるからか、その辺のバランスや見せ方のが上手い。
後から知ったのですが、3つの物語それぞれに色調を変えるなど細かく調整していたそうです。
もはやこの感性は天才としか言いようがない。

キャスト陣の配役、演技も見事でした。
ジェイク・ギレンホールは一人二役というよりは、同じ人物で別の世界軸にいる2人を演じていることになるのですが、そんな複雑な演技を見事に表現していた。
現実世界では弱さを、小説では家族を奪われた悲しみと怒りを、1つの人格として体現されていたと思う。

エイミー・アダムスの実利主義で皮肉な感じもハマってた。
最後の方は仕草や表情にちょっとイラっとするほど。

小説の中で2人を殺す犯人役のアーロン・テイラー=ジョンソンという役者さんもすごく印象的だった。
あの軽い感じとふてぶてしさ。
最初の事故での不気味さ。
あまり知らない役者さんでしたが、今後注目していきたいと思います。

“誰かを愛したら 努力すべきだ
簡単に投げ捨てるな 大切にしろ
失えば二度と戻らない”

僕自身も精神が弱く創造の世界を追い求める人間です。そして、エドワードのようにいつも惹かれるのは実利主義の現実に生きたい女性。
そんな僕の解釈で言うなら、この小説はいつも批判ばかりで自分の人間性を決めつけてくる彼女に、ただ自分の気持ちを分かって欲しかっただけだと思います。
自分の悲しみ、家族を失う(奪う)ということの残虐さを。
その想いを復讐と呼んでいいのか。


彼はとても優しい人。
小説の中で彼は言う。
あの時家族を守るべきだったと。


おそらく観た人それぞれ違う解釈をするラストであり、男性と女性でもだいぶ意見が分かれると思います。

小説の中の登場人物はあくまでもスーザンが自分たちに置き換えてイメージしてるだけです。
だからこそスーザンにとっては復讐のように思えただろうし、これで綺麗にエドワードを断ち切れるのだろうけど、僕には彼の繊細で不器用な想いの伝え方がすごく切ないと感じた作品。

僕にとって忘れられない映画となりました。