とむ

モラトリアム・カットアップのとむのネタバレレビュー・内容・結末

4.2

このレビューはネタバレを含みます

映像の展開の手法の気持ち良さがナイス!な作品。
いや〜好きですね。

テーマも「アナログが良くてデジタルは邪道!」的なありがち文明批判に落ち着いておらず、
どちらにも批評的で、且つどちらにも暖かい視点での愛情がしっかり注がれている点が非常に好印象でした。


キャラクターの描き方はどちらかというとドラマ的というか、
「池袋ウエストゲートパーク」や、「秋葉原@DEEP」の様な系譜という印象を受けました。
喋りがうざいなぁ…と思ってしまう部分も無くはなかったけど、それ以上に会話の描き方がなかなかうまい。
隣の席の会話を盗み聴いてる様な感覚で楽しかったです。

しかもその「うざさ」「やかましさ」が、そのまま感情的な伏線として機能する上手さには舌を巻きました。
物語上の不恰好さを含めた全てが、物語として機能する。正直完璧な形だと思います。


エンタメムービー然とした映し方をしてるけど、場面転換の切り替え方とか、
現実と妄想が入り乱れる感じとか、
実は全体的に実験的な要素も多くて、
この人が商業に行ったら一体どうなっちまうんだ?という期待でワクワクしてます。

個人的に、肩がぶつかる複数人の高校生役が…なシーン、めっちゃ好きです。
あそこで説明的にカットバック挟まなかったのも最高。


なんかこう、昔聴いてた音楽・観ていた映像を見て、それを「感じていた」自分ごとまとめてフラッシュバックする様な感覚って誰にでもあると思うんです。
その瞬間を切ないな、取り戻したいな、と思うか、あの時「も」いい時間だったな〜と感じるか。

「ビデオカメラ」を「倒す」ことも、否定して一歩進んでしまった主人公も切ない。
その感覚だって、主人公の中に留めておいてほしかったな…。
これは物語として不出来だっていう話じゃなくて、主人公に対して「違うんだよ!」って言ってやりたい感覚というか。


エンドロール後のあの映像の残酷性というか、諸行無常感。
「そんなことを考えていたということさえ忘れてしまう」と言っていた主人公の言葉と同じく、忘れてしまった主人公の嬉しそうな表情が切なくて…。
とむ

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