イチロヲ

火葬人のイチロヲのレビュー・感想・評価

火葬人(1968年製作の映画)
4.0
プラハで火葬業を営んでいる紳士が、ナチスによる強制的同化の脅威とチベット密教の輪廻転生論に感化されながら、死生観の刷新を体験していく。「世知辛い世の中からの解放」を信条にしている男の言動を追っている、ヒューマン・コメディ。

主人公の独白をメインとしたドラマ進行、固定観念に縛られない演出法、誰しもが胸中に秘めている倒錯性の表出など、あらゆる角度から刺激を投げ込んでくる。いわゆる、チェコ産ヌーヴェルヴァーグ。

鷹揚な態度で応対する主人公が、家族と普段通りの日常を送りつつ、静かなカオスに陥っていく。見世物小屋でのグラン・ギニョール(死の恐怖を見世物にしたショー)だとか、妻役の女優が演じる娼婦(エロスとタナトス)だとか、示唆に富んだ映像が登場する。

中盤部に入り、ユダヤの血統云々の話が動き出すと、いよいよ主人公が本物の確信犯へと豹変する。「苦痛から解放させるための人殺し」という新秩序を脳内に形成させるのだが、結局ヒトラーと重複する喜劇性。倒錯ドラマの何たるかを教えてくれる。
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