TAKU

ベートーヴェン通りの死んだ鳩のTAKUのレビュー・感想・評価

4.5
巨匠サミュエル・フラーが西ドイツでテレビシリーズ用に撮影した素材を、劇場用に編集した作品。

これがメチャクチャ面白い映画!金なかろうが、ヨーロッパだろうが、フラーはこんな面白い映画作っちゃうんだから凄い!

話は至ってシンプル。アメリカ人の私立探偵が、恐喝を生業とする国際的な犯罪組織に潜入して、各国要人のスキャンダル写真を捏造しつつ、組織の内情を探るというもの。ストーリーだけ聞いてると、40~50年代にアメリカで作られたハードボイルドタッチなノワール映画を連想する。

しかし、本作はハードボイルドなクライム映画を、シュールリアリスティックな60年代ジャーマン・ニュー・シネマのスタイルで撮った異色作だ。  

まず、オープニングタイトルの時点で「これは普通の映画じゃない」というのを覚悟しなければいけない。オープニングは、ケルンで行われた大きなカーニバルの様子とカットバックして、カーニバルの衣装を纏ったキャストやスタッフが次々と紹介される。最後に演歌歌手しか着ないようなギラギラしたジャケットを羽織ったサミュエル・フラーも登場する。そして、“Dead”“Pigeon”“On”と一語ずつタイトルが出て、死んだ鳩がベートーヴェン通りの標識に下に落ちる。ここまでのシークエンスだけでも本作が内包している異様が伝わってくる。

The Canの音楽が流れる中での追跡劇はメタクソカッコいい。そういえば、本作で流れる『Vitamin C』は、同じく探偵モノの『インヒアレント・ヴァイス』のアヴァンタイトルで良い使われ方をしていた。PTAは本作を観てるのかなぁ。

その後は「えっ!」ということの連続。主人公の探偵が1mくらいの距離で尾行したり、フラーの妻であるクリスタ・ラングが主人公のグレン・コーヴェットに「私、昔は女優だったのよ」と言った瞬間『アルファヴイル』の1場面がコラージュされたり、クライマックスは犯罪組織のボスがフェンシングで主人公に戦いを挑んできたりと何が何やら。

だが、そういった演出にあざとさみたいのが微塵もなく、「俺はこのアングルで撮って、こういう風に編集したかったんだ。文句あっか!!」という豪快さがあって、つまらないどころか、心地良くて仕方がない。

お互い顔を知らない二人の男が落ち合う時の合図が、クワイ河マーチというのは最高すぎ。

映画後半の、ケルンで行われるカーニバルの場面は、お祭り的なグルーヴ感が出ていて素晴らしかった。

しかし、あれだけヌーヴェルバーグ的な映画作りをしていて、最後はアメリカ映画を観たような気分になってしまうのは一体何なんだろう。どんな場所であろうと、サミュエル・フラーが撮ったらアメリカ映画になってしまう。サミュエル・フラー、アンタただ者じゃないぜ。

とにかく、暑苦しいくらいエネルギッシュでアナーキーな傑作。また観たいから、本作の権利買ってくれる映画会社いないかなぁ。