カルダモン

天空の城ラピュタのカルダモンのレビュー・感想・評価

天空の城ラピュタ(1986年製作の映画)
5.0
物語や設定、登場人物などは語られ尽くされているので一切触れないことにして、私なりに魅力を感じている部分だけ少し。

見れば見るほど空の描き方が驚くほど豊かで感心する。空を見上げる目線。地面を見下ろす目線。どちらも吸い込まれそうなほどの空で、憧れと畏れの背中合わせ。ほとんど全編にわたって主役は空なのだと思う。

私が魅力に感じるのは文字通り足のすくむような高所の表現で、ヒヤリとする瞬間の数々。思わず全身がゾワゾワしてしまう高所恐怖の描かれ方がすごい。例えば冒頭の飛行機襲撃シーン。窓の外に張り付いたシータが足を踏み外した瞬間、夜の空中に落ちていく感覚が全身に伝わる。あるいはドーラファミリーに線路上で追い詰められ、崩れかけた木造の陸橋にぶら下がっている場面でも同じく、落下した瞬間に息を飲む。飛行石が発光して重力が軽くなると、フワリと浮くその感覚もまた体に伝わってくる。

まだまだ他にも。パズーの家はのんびりとした朝の風景が気持ち良いんだけど、よくよく見ると断崖絶壁に建てられていて結構怖い。ふざけたパズーが飛行石つけて飛び降りたりしてたけど、一歩間違えば奈落の底だと思うと冷や汗モノです。
タイガーモス号の操縦室に繋がる通路や甲板とか、あんな吹きっさらしで低い柵しかないとこ歩かなきゃいけないと思っただけでゾワリ。見張り台まで昇っていく梯子も同じく、あの命懸けは一体何なんですかね?しかも見張り台を本船から切り離して凧のようにするなんて正気じゃないですね。自分がアレに乗るところを想像してゾクゾクして、よくわからない快感を得るのが大好きという変態視聴スタイル。

ラピュタに上陸してからも、シータをグルングルン振り回して落下しそうになったり、そこ飛ぶ?!みたいな足場にジャンプしたり。あるいはベリベリと剥がれる根っこを辿ってロボット兵が出てくる穴を裸足で駆け登るとか、そこ絶対ツルツル滑るだろ!ってのが絵から伝わるので見ていて心臓に悪い。なんといっても恐怖を倍増させているのは眼下に広がる真っ青な空。
のどかな天空の城を単に背景として描くのではなく、余すところなくフィールドとして使い切る。キャラクターの動きと背景が噛み合ってると言えばいいのかな。文字だと伝えるの難しいけど、セルアニメだからこその噛み合いに温度を超えた熱量を感じる。


最後には再びラピュタを見上げる目線へと戻るけれど、心の中にある視点は最初と最後では変化している。
人間と持て余した科学力。結局土から離れて生きることができないと否応なしに思い知らされて、地に足をつけた、というより地の中に埋もれたようなポム爺さんにホッとする。