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20センチュリー・ウーマンのemilyのレビュー・感想・評価

20センチュリー・ウーマン(2016年製作の映画)
4.3
1979年のサンタバーバラ。思春期まっただ中で反抗期の息子ジェイミーとシングルマザーのドロシア。ルームシェアしている写真家アビーと、近所に住むジュリーに息子の力になってほしいと頼み、それぞれが別の視点でユニークにかかわりながら、母と息子の距離感を解いていく・・

 年代を思わせるようなレトロポップなインテリアの数々、青春のキラキラと交差する浮遊感のある光の重なり、個性豊かな人たちが重なりあい、それぞれのナレーションや目線を交えながら、当時のニュース映像、夏の太陽、絶品の音楽に溶け込んでいく。

 スタイリッシュな映像に当時を色濃く打ち出すパンクミュージックが心地良く、演者たちの豊かな表情や会話の隙間に匂わす間が絶品。特に母親を演じたアネット・ベニングの煙草を吸いながら見せる渋そうな表情からいろんな心情を匂わせる演技がいい。

 3人の女性達、それぞれ全く違う視点でジェイミーと絡みあう。母は必死で息子の”世界”を理解しようと、同じ目線に立とうと頑張る。40歳にして息子を生み、到底理解できないパンクをなんとか必死でたたきこもうとする。しかしストーリー展開は決してメロドラマに転ぶ事も、説明で埋め尽くすこともなく、映像に映像を交差させ、カラッとしながらユーモアを織り交ぜ、それぞれの生き方に”良さ”をしっかり見出せる流れになっている。

 社会の変化に順応できない母親はまさに世代を生きてる二人の女性(エル・ファニング・グレタ・ガーウィグ)に息子の教育係を頼む。それは自分のようになってほしくないからである。それは母の愛であるが、息子はそんな事は求めていないのだ。

正義感が強く自分をしっかり持っている母親は何があっても大好きな母で、誇りなのだ。息子の世代を親が生きる事はできない。そんな事を子供も望んでいないだろう。息子の成長物語を通して、母のそうして女性達、取り巻く時代の成長物語でもある。女が強くなっていく時代にそれをしっかり受け入れていく息子を通し、誰かと係る事に背伸びや無理は必要ないんだと、改めて思い知る。何も起こらないようで、言葉にしなくても分かり合える、確かな親子の絆と母親の偉大さを見る。親子だって人と人だ。すべて分かりあうなんて到底できないし、その必要もないんだ。ただ素直に誠実に係る。それだけでちゃんと相手は見てくれている。
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