わたべ

20センチュリー・ウーマンのわたべのレビュー・感想・評価

20センチュリー・ウーマン(2016年製作の映画)
4.9
1979年の数ヵ月を切り取っただけの作品に思いがけず感動してしまった。

中心となる人物も舞台もかなり限られていて、作中で大きな事件や動きがほとんどない。あえていえば「日常系」ジャンルともいえる内容だけれど、語り口がなめらかで登場人物の造形がものすごく丁寧に作られているので、それぞれの考え方や行動が一面的だったりすることはぜんぜんない。

タイトルの「20センチュリー・ウーマン」というのは1924年生まれのドロシア(アネット・ベニング)のことで、彼女は40歳の時に息子ジェイミー(ルーカス・ジェイド・ズマン)を産み、いわゆるシングルマザーとして彼を育てている。
ドロシアが先進的で自立した女性というのがこの映画をとても魅力的にしている点で、シングルマザーと息子の話となったら“保守的な母親に反抗する息子”とか“経済的に困窮”とかそういう雰囲気になりそうなものだけど、そのテのありきたりとは無縁に映画が進んでいく。

思春期の少年が主人公ということで、この物語は性に関するナニガシかがテーマのひとつとして設定されている。ジェイミーは「性に目覚め」る15歳。彼が恋焦がれる2つ年上の少女ジュリー(エル・ファニング)は男には少々だらしなく、さらにもう少し年上のカメラマン アビー(グレタ・ガーヴィグ)は子宮のガン疑惑や不妊に悩まされる。

全体的にどうも“男が男の都合で女性をモノにする”という不良少年的な世間の価値観(というか、全一般男性的な価値観かもしれない)と、ジェイミー本来が持ってるーーそして学んだーー女性に対する優しさや慈しみとの折り合いが描かれているように感じられる。
「自分はフェミニスト」と言い切り、時にはヘンテコになりつつも他者の理解に努めようとするジェイミーの姿勢は2017年からも……というよりむしろ妙な男性主義が復権しそうな現在にこそ、尊く眩しく写る。

スクリーンを眺めながら思ったのはリチャード・リンクレイター監督の『エヴリバディ・ウォンツ・サム!』で、そういえばあちらもたしか1979年の話だった。
当時の風俗や背景をレコードや歌に代弁させるような音楽の使い方もどことなく似ている。

たいへん良い映画だと思いました。
わたべ

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