亘

20センチュリー・ウーマンの亘のレビュー・感想・評価

20センチュリー・ウーマン(2016年製作の映画)
4.0
【みんなでもがいたひと夏】
1979年カリフォルニア。シングルマザーのドロシーは、15歳の息子ジェイミーの教育に悩んでいた。彼女はジェイミーの幼馴染ジュリーと間借り人アビーの2人の女性に息子を託す。

息子を思うけど距離感の取り方や教育方法に悩んだシングルマザー、ドロシーと15歳の多感な時期の一人息子ジェイミーそれぞれが成長したひと夏を描く。「人生はビギナーズ」は息子と父親の関係が題材だけど、今作が描くのは息子と母親の関係。両作品では息子と親の少しぎこちない関係や息子の淡い恋、時折挿入される時代を映し出す写真の数々など共通するものが多くて、監督の強い思いや考え方を感じる。時代を写す写真は、きっと今作のアビーに由来してるんだろうな。

舞台は、世界が大きく変化していた時代。環境問題・核戦争のようなかつてない事件が起こり、街中にはヒッピーが現れた。世論ではフェミニズムが起こり、大統領は大量消費社会を憂いた。そんな変化の時代だったからこそドロシーは息子の行く先が不安だったんだろう。ドロシー自身戦時中にはパイロットを目指し戦後にはしっかり働いた。彼女こそ激動の20世紀を生き抜いた"20センチュリー・ウーマン"の代表格だと思うけど、息子はそこまでたくましくないかもしれない。息子に自分の想いを直接うまく伝えられないけど、息子への想いは誰よりも強いのだ。

そんな彼女が息子を託したのが、ジュリーとアビーの2人の女性。ジュリーは息子ジェイミーの幼馴染でジェイミーと友達以上恋人未満な感じ。アビーは、ドロシーたちの家に間借りしてるヒッピーの写真家。そもそもこの状況がなかなかない状況で、特にジュリーは夜な夜なジェイミーの部屋に忍び込み寝る"添い寝フレンド"のような存在。ジェイミーは性に興味を持ち始めてるからジュリーとやろうとするけどジュリーは「親しすぎるからダメ」だという。かなり曖昧な関係性だけど、ジュリー自身ジェイミーの2歳上だし大人びてて時にはお姉さん役になってた。

ジェイミーは数々の女性たちを見て成長していくわけだけど、ドロシーやジェイミーだけでなくジュリーもアビーもみんなどこか目標を見失ってもがいているように見える。ジュリーは快感を得られてないのに男とセックスを繰り返したり、アビーは子宮頸がんで出産できないかもと悲観的になり、同居人ウィリアムとセックスしてしまったりする。そしてドロシーは全く新しい恋をできずいつも一人でタバコを吸っている。"20 Century Women"という題がさす3人の女性は、尊敬できる女性たちであるとともに変化の時代に悩みもがいた女性たちでもあった。

終盤ジェイミー失踪事件を経て母子の関係は改善され、その後みんなそれぞれの人生を歩み始める。このメンバー全員で悩みもがいたひと夏だったけど最終的にはこの経験があってこそそれぞれの道を見つけたんじゃないかと思う。

印象に残ったシーン:ジェイミーとジュリーが寝ながら話すシーン。ジュリー・アビーが食卓でフェミニズムの話をするシーン。

余談
今作のドロシー・ジュリーのモデルはマイク・ミルズ監督の母・姉だそうです。
亘