これは荒廃した街で、復興した夢を追う3人の物語
2041年南海トラフ大地震後の西日本で、復興が進まないコミューン地区では急速なスラム化により事実上の無法地帯になっていた。
そこに住むジョーとアスはある日趣味で絵描きをしている娼婦のアンナと出会う、突如始まった3人暮らしで少しずつ日常に“楽しさ”を見出し始める3人、そして巨大暴力団の麻薬輸送車襲撃の話が持ち上がる。
それぞれの夢を叶える為にこの計画を遂行しようと考えるがスラムポリスに渦巻く陰謀に巻き込まれてしまう…というストーリー
『とんかつDJアゲ太郎』が公開されるという事で二宮健監督作品の予習を兼ねて劇場公開作の1つである本作を鑑賞したのですが、これが初監督作品とは思えない芸術性と世界観で驚き!
しかも卒業制作として作られたというからビックリ、あまりの反響により急遽劇場公開が決定したのも頷ける作品でした。
本作は卒業制作作品ということもあり多少作りの“荒さ”などは感じますが、それを差し引いても面白かったです。
コミューン地区と呼ばれる遠くない未来、でも荒廃したディストピアの描き方が上手く描かれていたなと思いました、ただ世界観はディストピアで荒々しく描かれているのに対し、主要なキャラクター達の描き方は物凄く繊細で淡く描かれているんです、でもその相反する2つがしっかりマッチしていて違和感無く楽しめるように作られていて見事だなぁと感じました。
その上映像はジョー、アス、アンナの3人で何の気ない日常ではしゃぐような楽しそうな映像が半分ほどを占めています。
その映像やカットの仕方などもとにかく淡く切なく、まるで荒んだ地に咲く小さい花のような側から見ればなんて事ない“幸せ”にクローズアップして映しているので劇的な描写では無いものの、深く胸に残る描き方でとても刺さりました。
その映像に合わせて優しくも特徴的な音楽が後押しするので、個人的にはメイン3人のドラマパートはどれも印象的で心に残りました。
この映画はシンプルな人間ドラマにも感じ取れますが割とメタファーや比喩的な作品にも感じ取れて、スラムポリスを渋谷、メイン3人を今時の若者に置き換えれるなと感じていて、劇中だと中国人などの移民が増えシャブなどのドラッグが蔓延しています。
これを実際の今の日本に置き換えても都心部などは出稼ぎに来ている外国人の方が増えていますし、薬物だけに限らず溢れ返っている娯楽施設なども劇中のシャブに置き換える事ができます。
そんな“スラム”でその日暮らしで夢も希望もない3人が小さな夢を見出す、というのが現代の若者を割と的確に描いているように感じました。
また劇中では夢を見つける為にスラムポリスから都心部に行く、という言動も人間の摂理でもある別れや上京などのメタファーに受け取れる描き方をしていました。
二宮監督自身、監督業界の中でも若手で且つ年齢も若いのでその辺のリアルな心情への理解と描き方はとても長けているのかな?と感じました。
「ディストピアSFアクション」と思いながら観ると退屈に感じるかもしれませんが、ディストピア人間ドラマと思いながら観るとその物語の淡さにウルっとされる事間違いなし!
是非、監督の世界観に酔いしれてみてください!
オススメです!