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レディ・バードのAnima48のレビュー・感想・評価

レディ・バード(2017年製作の映画)
4.0
大人になって、自分の馬鹿な所、足りない部分を笑えるようになった。けれどそれにも飽きてしまうと自分のどうしようもない愚かさ、格好悪さに狼狽えていた頃がなぜか眩しく思えてしまう。

クリスティンの目下の関心ごとは同級生の間での立場、家族の中での母親の介入、地元を捨てるための将来の進学先。自分の名前よりもレディバードという名を名乗る彼女は今の素の自分が受け入れられずに自信のなさ、自分の理想の自分らしくいること、ここではないどこか自分のいるべき場所への憧れに縛られているように見える。母親に啖呵切ったり強気な時もあれば、成功させる自信がないから夢があるのにはっきりとは口に出せず持って回った言い方をする時もあるとか。否定的で皮肉っぽい彼女の口調がある種の慎ましさのようにも見えてしまう。電源入れても立ち上がらなかったり立ち上がったりするPCのように不安定。でもまあ高校生ってそんな感じだったかもしれない。

どれもしっかり向き合うとかなりのエネルギーと試行錯誤の時間が必要なんだけれどクリスティンは思わず頼ってしまうのがウソ。ウソというよりもホラ。ホラなので他人に害なすウソではないから悪い子じゃないんだけど。かなり手軽にホラを吹いてしまって。自分の家の場所や成績等とあまりにも多い。その嘘というのは自分が抜け出したい恰好悪い場所から何とか逃げ出すためのウソで後先考えないし、細かな矛盾も気にしない。東海岸で文化のある場所に行きたいて言っても、世界情勢に関してのニュースはあまり気にしてないあたりの上滑り感が可愛いかな。

今いる場所から抜け出すために瞬間風速的に湧き出すドラマチックな爆発力というのが凄くて、いきなり車から飛び降りたり、先生が持ってる成績表をクラスごと捨て去ったり、幼稚な粗暴犯みたいな無計画で衝動的なふるまいが驚かされたり、愛しかったりする。

..でもこの子普通にカンニングとか万引きしてなかった?色々と危なっかしいけど、そこがヒロインみたいじゃなくて、こんな子いるかも。

クリスティンは前からの親友や彼も捨ててしまってクラスの中心人物の子に乗り換え、かっこいいバンドマンと付き合うことにするけれど、代償を払った先の世界はがっかりさせられることばかりだった。そんな中心人物の子にウソがバレても、真剣に詰めると面倒くさいからまあいいわで済まされる。そんな人間関係ってある、案外そういったウソは日常茶飯事なのかもしれない。考えてみたら、あのころ出所の怪しい出鱈目を垂れ流す子は自分の身の回りにもいた。かつて居た自分の場所に戻っていくクリスティン、だけどその帰り道は大人への階段だったように思える。

自分のクラスの中心だった子も一発逆転を狙って東京に行ったけど元気なのかな?思えば、地元を出るためのチャンスの一つとして進学を選ぶ子って多かった。

10代の男女の付き合いでなかなか切り出せない大きなことって性的なことみたいなところがあって、そんな主人公のオファーに対し彼氏は、非の打ち所がない美しい大切なノーを突き付ける。剛速球でストライク投げ込んだら、真芯で捉えてホームランにされて、カソリック高校クリステイン投手の夏が今終わりました…みたいな。そうなると私どうしたら良いの??って感じがものすごく面白い。しかも彼氏がゲイでダブルショック、でバンドマンと実際やってみると“え、終わり?”みたいな感じでしかも相手は初めてじゃない。あんた初めてって言ってたじゃない!何?私で7人目!?という地獄のどん底の底が次々割れていく流れがコメディのようだった。・・・・ごめんね、本人にしたら大問題なのに。初体験に対しての男女差が垣間見れたような気がする。初体験で傷ついた後、母親の腕の中で泣く、序盤で思わず外に飛び出した助手席で。それは母親にしか求めることができない、条件をつけない受け入れなのかもしれない。

そう、親と子の関係、特に10代の子と親の関係は、愛したいという気持ちと反発せずにはおれない・介入したいという緊張が交互にやってくる、向き合って眠ったり、冷酷に相手を打ちのめしたり。このあたりがこの作品で一番の関心事だと思うし、この映画を何歳の自分が観るかで印象が変わってくると思う、お金や権力が自分にあれば叶えてやりたい娘の夢を前にした親の避けられない重荷とか。思春期の時に観たかったと同時に今観れて良かったとも思う。実際母娘お互い離れたときに、どれだけ大きな存在だったか分かるんだろう。クリスマスには一回実家帰ったら?

故郷から離れて、自分のオリジンを顧みた彼女。自分の受けていた愛情や境遇の幸せを実感してレディバードではなく、クリスティンと名乗る時が彼女の卒業だったんだと思う。レディバードという言葉を聞いたときに、あの頃はまだ少女だったって恥ずかしく懐かしく思う時がやってくるんだろう。それはどこかにある埃の被った自分の日記帳を開いてみるようなものかもしれない。

・・やっぱり次の休みに一回実家帰ったら、どうだろう?
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