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レディ・バードのdm10foreverのレビュー・感想・評価

レディ・バード(2017年製作の映画)
4.2
~~ちょっぴりネタバレあり~~

【日曜日】

サクラメントのカトリック系高校に通うクリスティン(自称レディ・バード)は、閉塞感漂うこの町を出て、NYの大学に進学することを夢見ていた。
しかし、父は失業中で母とも折り合いが悪い。学業の成績もイマイチ・・・。
彼女は残り1年の高校生活の中で、家族、恋愛、友達、将来・・・と様々な壁にぶち当たりながらも、それこそ鳥のように羽ばたく明日を夢見て生きていた。

まず良かったのが、レディ・バードを「突飛なキャラクター」にしなかったこと。
厳しすぎる母親という存在を描くときにありがちなのは「そのカウンターとして破天荒な行動にでる」というパターン。フライヤーから伝わってきた印象(ピンクに染めた髪)なんかからもそんな印象を持っていた。
しかし、実際蓋を開けてみれば母親とカーステレオから流れる朗読を聴きながら二人で涙する普通の女の子。
言い争いもするけど、そこにはお互いの主張があって、決して片一方がおかしいとか飛び抜けているという事もない。ここに描かれているのは「普通の親子」なのだ。
ただ、普通の子は走っている車から飛び降りたりはしないけど(笑)

お母さんの厳しさはレディ・バードが憎いからでも嫌いだからでもなく、それが彼女の愛情なのだということが、実は物語の序盤から出てくる。
映画を観ている私たちには伝わっているのに、肝心のレディ・バードにはそれがキチンと伝わっていない。これこそがこの作品、いやこの年代の全ての人達が抱える永遠のテーマともいえる。

「子供から大人になっていく過程で変化していく親と子の関係」

お母さんはただ単に厳しいだけじゃなかった。勿論レディ・バードに対するあたり方はキツイなと感じる場面も多かったが、実は八つ当たり的な怒り方をする場面は一度もなく、表現や方法はともかく「レディの為」という方針は一貫していたように思う。
だからこそレディのだらしない部分が許せないのだ。

「お母さんは服を脱いだまま寝たことはないの?お母さんは自分のお母さんを憎いと思ったことはないの?」
注意され、感情のままに気持ちをぶつけるレディに、お母さんは一言
「私の母は酒浸りだったわ」
とだけ言って部屋を出て行く。
ここがレディに対する接し方の原点なのかもしれないな・・・と感じる1シーン。

レディの家庭環境はお世辞にも「恵まれた」とは言えないものだったかもしれない。でもそれは経済的な意味であって、実は誰よりもレディを愛している両親と、ちょっと距離はあるけど「付かず離れず」が丁度いい兄ミゲルとその彼女シェリー。ちょっと逸れるけどミゲルは養子なんだね。だから人種も違うのね。その辺の説明がなかったもんで・・・。
でも、お陰であの家族が好きになった。決して「内向きで閉鎖的な家族じゃない」って。
だから、僕は決してレディは「恵まれてない」なんて思わない。
・・・でもね、わかるんだよね。ティーンエイジの頃って自分の周りは全てがネガティブで、外にこそ刺激が待っているって思いがちだよね。
それって間違ってないと思うんだ。そうやってみんな親元から巣立って社会に出て行くんだから。そして、自分が大人になってようやく親や家族の有難みに気がつくんだよね。

じゃあレディは反抗期バリバリのティーンエイジャーだったか?というとそうじゃないんです。最初からお母さんの愛をずっと求め続けてたんです。自分は嫌われていると思っていたから尚更です。
プロムに着ていくドレスを選んでいる最中の会話、
「どう?これ素敵じゃない?」
「似合わないわ」
「どうしていつも私を否定するの?似合ってるねってどうして言えないの?もっと私を愛してよ」
「あなたを愛しているわ。だから本当の事を言うのよ。あなたにはもっと素晴らしい人生を歩んで欲しいから」
「(私の人生は)今が一番素晴らしくても?」

決して二人とも離れたいのではなく、実は愛を求めてぶつけ合っていたんだな・・・と。

友達関係はまさに思春期の象徴だよね。
ジュリーという不動の親友がいて、ダニーというナイーブだけど現実的な彼氏ができて、でもその彼は実はゲイで・・。
カイルはダニーとは違う「理想(空想にも近い)の存在」だった。どこか人間離れしてる彼は、恋に憧れるレディーにとっては興味をそそられる存在。しかし彼との初体験で知る色んな意味での現実。そして迎えに来てくれたお母さんの胸で泣くレディ。
「日曜だし、いつもの行事に行かない?今日は非番だし」
そういってモデルハウスめぐりをする二人。
何だかんだいっても二人は親子なんだね・・・では終わらない。
NYの大学の補欠合格の件を内緒にしていたことがバレて、それ以来数ヶ月間結局お母さんは口を利いてくれなかった。レディがどんなに謝っても・・・。
それは単にお金の心配をしたからじゃない。レディが自分に何も言わず自分自身の道を決めたことへの悲しさ、驚き、感動・・・いろんな感情がごちゃ混ぜ状態だったんだよね。

だから、何度も手紙を書き直しては結局自分から渡すこともできず、空港まで送ったときも「駐車場代がかかるから」と車を降りずにレディを降ろして走り去ってしまったり・・・。
どういう顔をしていいのかわからないから。
レディに何を言ってあげればいいのかわからないから・・・。
でも後悔したくないから、だからお母さんは溢れる涙を堪えながら急いで出発ゲートまで戻ります。
しかし既にレディは機上の人でした。
泣き崩れるお母さんをそっと抱きしめるお父さん。
「大丈夫。ちゃんと帰ってくるよ」
僕も一緒に泣けた。うんうん、レディなら大丈夫。お母さんの愛はちゃんと届いているから。
ちょっとだけ愛情表現が不器用だったお母さん。
そういえばお父さんはレディに対してお母さんの事をこう言っていた。
「2人とも自我が強いからな。お母さんはお前を支えたくてイライラするんだよ。」

NYの大学の飲み会で名前を聞かれるレディ。
「君、名前は?」
「クリスティンよ。宜しく」
ゾクゾクッときた。レディは『尖ったティーンエイジャー』から大人になろうとしてるんだ。だからありのままの名前を受け入れたんだと。
酔っ払って急性アルコール中毒で運ばれた病院のベッド。隣には怪我をして不安そうにしている男の子と、その横に心配そうに寄り添うお母さんの姿・・・。
今日は偶然日曜日。教会に行って賛美歌を聴いて・・・・。
レディはお父さんとお母さんに電話をかけた。今までの謝罪と最大限の感謝と愛を伝えるために。
本当に素敵な映画だった。レディがとても純粋で強がっている反面、今にも壊れてしまいそうで、でも笑顔がとてもキュートで。そんなレディ・バードに恋をしてしまいました。
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