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レディ・バードのumisodachiのレビュー・感想・評価

レディ・バード(2017年製作の映画)
5.0
とにかく刺さりまくって感情が大変なことに。大傑作じゃないですか。

まず、学校。私は小学校から高校までカトリック系。特に中高は女子しかいなかったので、本作に出てくる雰囲気がリアルでリアルで……(本作の学校は女子部と男子部に分かれていて、厳密には女子高ではないけれど)。カトリック系の学校と言うと、やたらと厳しくて理不尽と言うイメージがあると思うし、実際にそういう描写を見かける機会は多い。しかし、私の母校はそんなことはなかった。小学校は異様に厳しかったが、校舎の立地が異なる中高はどちらかというと自由だった。茶髪もパーマもいたし、皆ルーズソックスを履いていた。持ち物も自由。もちろん、公立の学校や宗教色のない私立と比べれば縛りはあったと思うが、ガチガチに厳しい雰囲気ではなかった。

クリスティンの学校のように、経験豊富な過去を持ったシスターもいた。はっきりと「記念受験はやめなさい。まぐれで合格するなんていうことはない。ダメ元でも落ちたら傷つく。だから私は進路相談でハッキリと言う」という信念を持ったベテラン教師もいた。卒業式で彼女のことをちゃんと"レディ・バード"と呼んであげていたところに、学校の包容力を感じずにはいられなかった。

レディ・バードが親友とホスチア(ミサで聖体としてふるまわれる薄いビスケット?のようなもの)をボリボリ食べながら下ネタトークをするシーンには少し驚いたが、よく考えたら私もホスチアをこっそりつまみ食いしたことがあった。私の学校では、クリスチャンの生徒(洗礼を受けている者)は週一の勉強会に参加する義務があったのだが、そのグループでの合宿(修道院にお泊り)のときにホスチアが入っている容器を発見して、友達とこっそり1枚とって食べたことがある。今まで完全に忘れていた思い出が、噴き出すように蘇ってきた。あまりの背徳感に1枚食べるのが限界だったが、ものすごく興奮したのを覚えている。※ちなみに、ホスチアは特に美味しいものではないよ。味はほぼない。

下ネタやスカート丈チェックもそう。女子高というのは、男子の目がないだけ開放的になるものだ。「誰か生理用品めぐんでー?」という大声を受けて、教室の端から生理用ナプキンが飛んでくるような環境。水を入れたコンドームを教室で投げ合って叱られた同級生もいた。『レディ・バード』の主人公は変わっていると思う人がいるとしたら、それは間違っている。あの子は、カトリック系の女子高にいるごく普通の女の子だ。自意識過剰で少し恋愛に積極的な傾向はあるけれど、彼女よりもぶっ飛んでる子なんて、何人もいた。

それに、私は音楽部に所属していて、毎年ミュージカルに参加していた。本作で出てきた『メリリー・ウィー・ロール・アロング』というミュージカルはソンドハイム作曲の作品で、日本でも上演されたことがある。ハリウッドで成功したプロデューサーが、若い頃同じ夢を追った仲間(男2人、女1人)がそれぞれ辿った20年の軌跡に想いを馳せるというストーリーだ。私が高校時代に上演したのは、もっとメジャーな作品ばかりだったが、やはりカトリック、女子高、ミュージカル……多くの共通点が、どうしても自分の青春時代を呼び起こしてしまう。

また、私の高校時代は恋愛とはまるで縁がなかったのだが、クリスティンが恋に恋して傷つく姿はリアルすぎた。特に、カイル。他の子とは少し違った雰囲気で、自分だけが彼の魅力に気付いていると思っていたのに、全然そんなことはなかったという落胆。痛い。痛すぎる。記憶が抉られすぎてつらい。イケてるグループに媚びてみたものの、『やっぱり違うな』と思って抜けたりするのも、あるあるすぎる。

そして、母親との関係。唯一、家庭環境だけが自分とはかけはなれていたし、私の母親は私を縛り付けるようなことは言わなかった。クリスティンが傷つかないように縛り付けてしまう母親の気持ちは、自分も母となった今はよく分かる。自分の母親に改めて感謝の気持ちを抱いた。

しかし、プロムで着るドレスを見て「すごいピンクね」と言った母親にクリスティンが激怒したとき、ある出来事を思い出してひどく恥ずかしくなった。実はつい三日前、私は電話で実母に激怒したのだ。自分や子供の体調不良が続いて家からほとんど出ることができず、体力もないので家にいても何をすることもできず、かなりストレスが溜まっていたのだろう。弱音を吐いた私に対して、母として妻としての自覚を促すような言葉を返した実母。私は、「どうして私の弱音を黙って聞いてくれることができないんだ」と責めた。子供がいるところでは出せない弱い気持ちを、母親にはそっと受け入れてほしかったのだと思う。

「どうして黙って肯定してくれないの」と言ったクリスティンと同じではないか。私、もう38歳なのに。『レディ・バード』は、遠い昔に過ぎ去った青春時代の話なんかではない。あの頃の自分を抱えたまま大人になった私の物語でもある。あらゆる点で、私にとっては強烈な作品だった。一生かけて、きっと何度も観返すことになるだろう。

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