つのつの

レディ・バードのつのつののネタバレレビュー・内容・結末

レディ・バード(2017年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

【ハズレた青春の終わりと成長 】
驚いた。こんなに変な青春映画は、初めて見た。
明らかに、「クルーレス」以降のアメリカンガールズムービーに対するカウンターのような作品。
あくまで物語自体は、それらの型通りに進む。
初恋、パーティでの一目惚れ、進路の悩み、親との確執などは、何度もアメリカの学園映画の中で描かれてきた。
しかし、敢えてその定石に乗っかるからこそ、本作の「外し」「変さ」がより強烈な印象を与えるのだ。

例えば、本作は異常に静かだ。場面を彩るようなポップなサントラもなく、人物たちの囁くようなセリフが続いていく。
この手法は、「クルーレス」で確立され後のティーンムービーの「型」となった、「早口なナレーションで主人公が物語を進める」演出と明らかに対をなしている。
他にも、鬱や失業、911テロなど学生映画には重すぎるテーマが物語の背後に横たわっているし、学園映画に付き物の「イケてる・イケてない」=「スクールカースト問題」も殆ど描かれていない(唯一の台詞で、その過酷さを暗示するあたりエグい!)。
一番変な演出は、ティモシーシャラメ扮するミステリアスでクールなバンドマン。
こういうキャラ自体はそこまで珍しくはないが、レディバードが惹かれていく彼の「ミステリアスぶり」が常軌を逸していて思わず笑ってしまう。
プールサイドのシーンなんて、かっこつけすぎてただの馬鹿にしか見えないよ!

何故グレタガーウィグはここまで変わった映画にしたのか。
様々な可能性があるけれども、本作が「母と娘の物語」という点にヒントがある。
グレタガーウィグはインタビューなどで、「従来のティーンムービーは、男の子と女の子のドラマを描くが、女の子にとって学生時代の一番の存在は母親であることを描きたかった」と語る。
この時点で、まさに本作はティーンムービーへのカウンターパンチを放つ心意気が満々なのだ。

監督がそう語るだけあって、本作の母娘のドラマは非常にリアルで、豪華な味付けを極限まで削いでいる。
娘レディバードは、周囲に対して不満を言い散らかす典型的な思春期学生だが、それができる甘い環境が母親の収入のおかげであることは気づいているだろう。けれども、わかっていてもまた些細なことで苛ついて傷つけてしまう。
このリアルなキャラクターは、学生の自分にとって共感不能どころか驚くほど感情移入しやすかった。
対する母親の方はさらに厄介で、
自分の娘への愛を素直に表現できず直ぐに拗ねたり黙ってしまう。
この2人は従来のドラマのように「円満→喧嘩→仲違い」というような単純な関係を辿らない。
些細な諍いで急に口も聞かなくなったと思いきや、突然プロムに行くドレスについて楽しげに語らう。

この普遍的に歪な親子が迎える結末にビターであるのが、また本作の意地の悪い点である。
退屈で仕方がない田舎町をついに飛び出した彼女は、案の定直ぐにホームシックに襲われる。
聞き慣れた賛美歌、兄を思い出すアジア人家族。
口先だけのプライドは泥酔で緊急搬送という思い出に汚され、些細な自己表現の一つだった腕のギプスは無残な顔の痣と化す。

孤独と不安のどん底に苛まれたレディバードがラストに取る行動。
そこで彼女が語る心情に、遂に彼女にとっての成長の・ようなものが見える。
決定的な成長ではないあたりやはり苦味が強いけれども、
誰かの思いを想う事が出来るようになった彼女はもう大人の階段は登り始めているのだ。
散々観客を混乱させた外し演出は、いつのまにか同じ構図のジャンプカットというオーソドックスな感動を生む。
電話の応答はない。
不意打ち的な暗転の後の彼女の人生を想像せずにはいられない。
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