YasujiOshiba

レディ・バードのYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

レディ・バード(2017年製作の映画)
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 なるほど、グレタ・ガーウィグの監督デビューにして自伝なんだね。でも自伝だからというだけで、誰もが懐かしさを感じる作品になるとはかぎらない。例えば、フェリーニの『アマルコルド』もまたある意味で自伝なのだけど、それが万人にとっての故郷、万人にとってのノスタルジーの表象となったのは、ある種の距離感と、映画としての作り込みがあったから。グレタ・ガーウィグのデビュー作もまた、けっこういい線いっていたんじゃないだろうか。

 距離感と作り込みがしっかりしていたから、ぼくらはカリフォルニア州のサクラメントになんて行ったことがなくても、この西海岸の街に郷愁を感じることができる。そこから逃げ出したいひとりの娘(レディ・バード/シアーシャ・ローナン)が、東海岸に出て初めて故郷のこと、両親のこと、とりわけ母親の気持ちの深さに気がつくまでのディテールが、ローカルなものを内側から突き抜けているのだ。

 シアーシャ・ローナンは、このところお気に入りの女優さん。ここには、その素敵な演技をさらに引き出す場所があったよね。彼女の演技を楽しめる新たな機会を生み出してくれたという意味でも、監督のグレタには拍手を送りたいな。

 それから、アメリカにおけるカトリックの描き方も興味深かった。それは、なんだか大嫌いなんだけど気になって仕方のない故郷の描き方とほぼ重なっているよね。たとえばあのシスター。レディ・バード/ローナンのイタズラに、笑いながらジーザスと40年来結ばれているのよと言うシーンなんていうシーンにはホロリとくる。学生たちからは少々嫌われているのだけれど、結果的には学生たちのことを思っていることが明らかになり、その記憶で良い思い出の一部になってゆく、そんなキャラ設定は悪くない。

 でも、こういうのってカトリック的なものとの、ある意味で和解にも見えるよね。個人的にいえば、どうしてもフェリーニ的なカトリック教育の表象と比較してしまうから、もう少し距離感があってもよかった気もするのだけれど、それは無いものねだり。産地の違う熟したワインに求める味というもの。

 この映画に味わうべきテーマはもっと若いものなんだよね。それは、無知と裏腹の若さゆえに、ただただ閉塞感しかもたらさない故郷・サクラメントが、じつのところ、まさにカトリック的な秘跡(サクラメント)でもあったという発見であるだろうし、あるいは、距離という小さな喪失のなかで初めて姿を見せる感謝の念とノスタルジーなのだろう。

ワインでいえば、若さのなかに立ち上がるほろ苦さかな。それってさ、若さのなかの普遍的な味わいなのではないだろうか。
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