りっく

レディ・バードのりっくのレビュー・感想・評価

レディ・バード(2017年製作の映画)
4.5
決められたレールから外れようとするカッコよさ。自分は周囲と違う存在だとあえて奇抜な行動に出る自意識。自分では選択できない家庭環境や住んでいる街を呪い、その退屈さから何とか外に出ようとする焦り。友達や彼氏を乗り換えていくが、傷つきまた元に戻っていくダサさ。そんな日々に一喜一憂するレディ・バードをスケッチのように軽やかに描いてみせる。

そんな彼女が念願叶って、いざ田舎から都会に出てみるとどうだろうか。今まであんなにダサいと思っていた地元が、出自が、家族が、学校が、懐かしく、それでいて誇りに思えてくる。今まで当たり前だと思っていた光景や日常への有り難みや感謝の気持ちが湧いてくる。そしてそんな気持ちが痛いほど良く分かる。

レディ・バードという自ら付けた名前から、親から授かったクリスティンという名前を堂々と名乗り始めた彼女。その過程は青春や成長という言葉で片付けられるのかもしれない。ただ、そのスケッチのような何気ない日々が、かけがえのない意味ある経験であったという気づき、それから彼女の心の在りようが180度反転する、その動きをつぶさに追いかけたからこそ感動させられる。

また心の在りようが反転するのは娘だけではない。愛情表現の下手くそな母娘が、互いに相入れないようで心の根っこでは繋がっている絶妙な関係性を見事に伝えている。

特に冒頭の母親が娘を助手席に乗せて運転し口論になる場面、大学へと旅立つ娘を空港に置いていくが、その寂しさに耐えきれず母親がひとり涙を流し空港へ引き返す場面、そして運転免許を取り娘が初めてひとりでドライブをする場面と、車という限られた空間が、母娘の歴史や記憶を繋く装置として見事に機能している点が素晴らしい。
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